2016年に大ヒットを記録した『溺れるナイフ』で一躍注目を集めた新鋭：山戸結希監督の最新作、『ホットギミック ガールミーツボーイ』がいよいよ6月28日（金）より全国公開される。主人公・成田初（なりた・はつみ）を演じるのは、映画初出演にして初主演に抜擢された乃木坂46の堀未央奈。以前、乃木坂46のMVを山戸監督が手がけた際に、そのみずみずしい存在感が印象に残ったという堀を、本作の主演に抜擢したという。映画界を牽引する次世代の映画監督・山戸氏と、国民的アイドルグループ「乃木坂46」のエース堀に、本作の見どころ、お互いの印象、撮影現場のエピソードなどを聞いた。

――まず、山戸監督に堀さんを主演に起用した理由からお伺いできますか。

山戸結希「乃木坂46の『ハルジオンが咲く頃』のMV撮影の時に初めてお会いしました。撮影は二日間だけでしたが、堀さんの真摯さが言葉にせずとも伝わってきて、存在が刻み込まれていました。いつかまたお会いするのかもというイメージが漠然とあった中で、今回『ホットギミック ガールミーツボーイ』が動き始めた時に、『主演はぜひ、堀さんで』と私から名前を挙げました」

――堀さんはそのMVの撮影の時のことは覚えていますか？

堀未央奈「よく覚えています。MVを女性の監督に撮っていただく機会がなかなかなかったので、女性目線での乃木坂46ってどういう感じになるのかな？という楽しみもありつつ、繊細な部分まで演出してくださったことが印象に残っていて。例えば、走り方の指導があったり……」

山戸「あははは、懐かしい」

堀「ありましたよね（笑）。私は走る時に腕をまっすぐに振って走る方だったんですけど、山戸監督に『頭も腕も全てを横に振って走ってください』と言われて。自分にはない視点を持っている方だなと感じましたし、短時間で大変でしたが、とても楽しかった思い出があります」

――『ハルジオンが咲く頃』は、一期生の深川麻衣さんの卒業シングルで、MVの主役も彼女でした。堀さんは憧れの先輩から最後にバトン（花束）を託されるという役でしたよね。

山戸「そうですね。堀さんには、たとえどれだけ離れたところからでも、“私を見て！”とカメラを引き寄せてしまう訴求力がありますね。だからこそ、今回、彼女を撮ることに納得感がありました。彼女がそうした引力を発していたというか、カメラを誘（いざな）っていたのだと思います」

――堀さんは映画初出演にして、初主演のオファーを受けた時はどう感じました？

堀「最初は本当にびっくりしました。山戸監督の作品も好きで、『溺れるナイフ』を映画館に観に行っていたんです。なんというか、……観終わった後に言葉にできない感情が残って。楽しかった、怖かった、可愛かった、面白かったっていう単純な感情ではないんですよね。ひと言で感想を言うとしたら、見てはいけないものを見てしまったような気もするけど、でも、見て良かったな……みたいな」

山戸「素敵……」

堀「ふふふ。すごく胸に刻まれた映画だったので、山戸監督の新たな作品でご一緒できるっていうのは、今まで頑張ってきて良かったなって思いましたし、これからが挑戦だなという思いもありました」

山戸「堀さんの口からそんな言葉が聞けて、とっても嬉しいですね。しっかりと自分の芯を持っている方と、ポジティブな想いで、新しい作品でご一緒出来たというのは、願い以上のことでした」

――主演ということに対してプレッシャーはなかったですか？

堀「撮影が始まる前の準備期間で原作の漫画を読んだり、いろんな映画を見たりしていたんですけど、その時はプレッシャーを感じていました。ジェットコースターに乗る前に、並んでいる時の方が緊張するみたいな感じで。でも、いざ撮影が始まると、その時間がすごく心地いいというか、プレッシャーよりも、“良いものを作りたい”という気持ちの方が強かったですね」

――山戸監督から見て、現場に入った堀さんはどうでした？

山戸「どんな言葉も通じ合って、１シーン１シーン、誠実に作ってゆけたなと思います。きっと、普通ならば負けちゃうような場面や、折れちゃうような場面でも、ご自身の中で良い言葉に変換して、目の前の状況をどんどん良い方に良い方に持ける方なんですよね。主演として、座長として……なんていうんだろう、堀さんらしい、堀さんだけのリーダーシップを、ずっと頑張られていました。堀さんが真ん中でいつも凛と立っていることで、みんなを鼓舞してくれていたんだなと思います。言葉として、実際にそういう話はしなくても、伝わってきました。“絶対に折れないぞ！”という姿で、堀さんがいつも立ってくれていて。堀さんがそうやって立ってくださっている以上、自分も前を向き続けようと思いながら、ちょうど１ヵ月、一緒に走れたという感じでした」

――堀さんは意識していましたか？

堀「はい、意識していました。山戸監督も、毎シーン毎シーン、良いものにしようという想いでセリフをたくさん書き換えてくださって。妥協がどこにもなくて。そういう戦う姿勢って、女の子にもすごく必要なことだと思うし、近くにいて、いつもカッコイイなと思っていました。だから、“私も頑張らなきゃ! 戦わなきゃ!”という気持ちは常にありましたね。でも、一人で頑張らなきゃという感じよりかは、監督やキャストの皆さん、スタッフの皆さんと一緒に戦うぞ！という気持ちの方が強かったです」

――堀さんが演じた初（はつみ）は逆に、常に揺れ動いている少女ですよね。監督は堀さんにどんな初を求めましたか。

山戸「普段、乃木坂46のメンバーとして活動されている堀さんはすごく華やかで輝いていますが、そんな堀さんの陰陽の陰……影の方の部分ですよね。日本中の10代の女の子が、“これは自分自身の物語だ。〈初〉は自分の姿でもあるんだ”と思ってもらいたいということを、堀さんにも話していて。また、自分の意見を、一歩引いてしまって言えないというのは、当たり前に誰もが経験したことがある気持ちなんじゃないのかなとも思っていて。誰もが経験したことのある気持ちの象徴的な存在として、〈初〉がいてほしいと思っていました。そのバランスはすごく難しかったと思いますが、本当に堀さんしか実現し得ない形で初を演じ切ってくれました。カットをかけるごとに『ありがとう』と言いたかったくらい。実際に言ってしまうと毎回はおかしいので、その場では『カット』しか言えない（笑）」

堀「嬉しい」

山戸「『初、ありがとう！』と、最初から最後まで思っていました｣

堀「初ちゃんが感じているのは、思春期の女の子はもちろん、大人の方は自分の10代や20代の恋愛を振り返った時に、絶対にみんなが経験する気持ちだと思うんですよね。なかなか自分を肯定できなくて、好きになれなくて。周りの人に流されたり、自分の気持ちを偽って言ったりする。全然うまくいかない日々が続く……みたいな。その積み重ねは、私を含めた女の子も男の子も経験していることなんじゃないかなと思うんです。だから、台本を読んだ時も、演じている時も、“この気持ち、ちょっと私には理解できないな”という瞬間が一切なかった。わかりすぎて、どうしていいかわからないという悩みの方がありました」