山崎さんにとっては初の福田組参加となった映画『50回目のファーストキス』。まずは出演が決まったときの感想を聞かせてください。

「もともと私は、福田雄一監督のファンで作品もほとんど観ているので、お話をいただいたときはびっくりしました。福田監督の作品って、毎回必ず前作を超える面白さを生み出されているなと思うんです。ということは、この作品もきっと今まで以上に新しくて面白いものになるんだろうなと一ファンとしてもワクワクしましたし、その作品に参加できることが純粋に嬉しかったです」

ギャグコメディの奇才である福田監督がラブストーリーを!?　ということでも話題ですが、台本はいかがでしたか？

「もう台本の時点で面白くて、読みながら声を出して笑っちゃいました。だけどそれだけじゃなくて、キューッと胸を締め付けられるような切なくて泣けるシーンもあったり、心がホッと温かくなるシーンもあったり、 “こんなにいろんな感情が引き出される映画ってどんなふうに作るんだろう？”と現場入りが待ち遠しくなりました」

山崎さんが演じたハワイのツアーガイド会社のスタッフ・高頭すみれという役どころについて、どんな人物だと捉えましたか？

「高頭すみれはちょっとツンケンした女の子で、同じツアーガイド会社で働く大輔（山田孝之）にけっこうキツい言葉を浴びせたりするんです。でも実は大輔のことを密かに思っていて、その気持ちをうまく伝えられないというピュアさの反面でツンケンしちゃうのかなと解釈しました。とは言ってもやっぱりこの作品は山田孝之さんと長澤まさみさんのラブストーリーが主軸なので、すみれもそんなに失恋を引きずることもなく、結構ひょうきんな振る舞いも見せたりするので、そこは本編でぜひ確認していただければ。監督からは完成披露試写会で『憎たらしい顔してたね〜』と言われました(笑)」

ツアーガイド会社での山田孝之さん、勝矢さんとの3人のテンポのいいやりとりも面白かったです！

「別にボケてるわけじゃないのですが、お二人の役がちょっとズレてるというか発言がトンチンカンというか(笑)。その中で私が演じるすみれが唯一のツッコミ役というポジションなんですよね。でも実際、現場ではアドリブをバンバン繰り出してくるお二人についていくのに必死でした。そのアドリブがどれも面白くて、もともと台本の時点でも面白いのに、そこをさらに超えてくるんです。かといって無理やり笑わせようとかしているのではなくて、純粋にお芝居を楽しむ中から面白いやりとりが生まれる感じで」

福田作品の笑いが生まれる瞬間を体感したわけですね。

「はい。監督も台本に忠実でなくても、その場で面白いものが生まれたら『それいいね』とどんどん採用される方なんです。何よりとにかく現場が明るくて、変なピリピリした空気が一切なくて。それもやっぱり監督の雰囲気作りの手腕で、だからこそ俳優陣ものびのびとお芝居を楽しんで表現できる、それが福田作品の魅力になっているんだなと思いました」

撮影はハワイで約１ヵ月のロケを行ったそうですが、どんな過ごし方をされたんですか？

「私は１週間の滞在だったんですが、海外ロケにあまり慣れてないので最初は少し不安で戸惑っていたんです。そうしたら長澤まさみさんが『ご飯行く？』と誘ってくださって。その後も頻繁に声をかけてくださって、多くの時間を共有させていただきました」

事務所の先輩である長澤さんとの共演シーンはなかったですが、間近でお芝居を見て勉強になったことはありましたか？

「長澤さんは女優としてはもちろん、人間的にもとてもチャーミングで遊び心に溢れた方だなと。そんな長澤さんご自身の魅力が、今回演じられた瑠衣にも投影されていると思います。それは長澤さんにしかないものだから真似したくてもできないけれど、私も自分自身にしかないものを掴みたいと思いました。それと長澤さんも含めてキャストの方々からは、常に新しいお芝居を探求することの大切さを学びました。どんなにキャリアを重ねようとも、自分の表現の限界を設定しないこと。それが俳優として成長していくということなんだなと、みなさんのお芝居を見ていて感じました」

『東宝シンデレラ』オーディションから7年、活動を重ねてきた中で山崎さんのターニングポイントになった出来事を教えていただけますか？

「昨年春に大学を卒業して、社会人になったことは自分の中で大きな出来事でした。それまでも自分の中ではあまり学生という感覚はなくて、仕事を始めたときから社会人なんだと思っていたんです。だけど、いざ学生という肩書きが取れてみると、無自覚ではあったけど学校というもう一つの居場所に甘えていたところがあったことに気づきました。これまで求められなかった覚悟もあっただろうし、もっと自覚的にならなくてはいけないと、自分を見つめ直したきっかけでした」

女優専業になって１年経ちましたが、ご自身の中でどんな変化を感じていますか？

「これも改めてなんですが、自分はちっぽけな存在だけど、そんな自分が何か行動することによって誰かに影響を与えられるということを強く意識するようになりました。身近なことで言うと『紘菜ちゃんのSNSに元気をもらっています』『学校に行くのがイヤだったけど、SNSを見て頑張ろうと思いました』といったコメントをいただいて、この職業だからこそ届けられるものがあるんだなと実感しました」

長らく映画館「TOHOシネマズ」のナビゲーターを務めていますが、山崎さんの紹介でその映画を知って観に行った人も多いと思いますよ。

「私の大切なお仕事の一つですね。『紘菜ちゃんのナビゲートが観たいから、早めに映画館に行くようになりました』というメッセージをくださった方もいて。そういうふうに誰かの気持ちや行動まで変えてしまう職業だからこそ、もっといい影響を届けられるように自分自身も成長したいと思います」

今抱いている夢、そしてそれを叶えるためにしていることはありますか？

「お仕事としてはアクション映画に挑戦したいので、地道ではありますがトレーニングはずっと続けています。あとこの職業を続けていく中での一番の目標は、日々の生活の中で生きづらさを感じていたり、苦しい思いをしている人を、お芝居をはじめとするいろいろな活動でいい影響を与えられる存在になりたいです」

山崎紘菜
やまざき・ひろな●1994年4月25日生まれ、千葉県出身。東宝芸能所属。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディション審査員特別賞受賞。2012年、『僕等がいた（前編・後編）』（三木孝弘監督）で映画初出演。以降、映画、ドラマ、CM、舞台など数多く出演。近年の主な出演作に、映画『orange-オレンジ-』、『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』（吹き替え）、『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』、『花筐／HANAGATAMI』など。今後、朗読劇シリーズ《恋を読む》「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」（8月24日・25日オルタナティブシアター）、『検察側の罪人』（8月24日公開）が控える。ファッション誌『JJ』（光文社）レギュラーモデルとしても活躍中。