──アニメに欠かせないトップ声優の1人である一方で、舞台や映像の仕事も並行されています。顔出しの仕事か否かで芝居に違いはありますか？

「それぞれの現場で求められるスキルや表現方法に違いはありますが、"自分とは違う人物の人生を生きる"という芝居のベースは変えていないつもりです。そのためには自己満足になってはいけないとも思っています。制作者がその役にどのような思いを込めたかを汲んで表現するのが役者の仕事なので、自分が『こういう芝居がいい』と思っても、違うと言われたら柔軟に対応できるよう、常に凝り固まらないでいたいですね」

──柔軟に対応するためには、それだけの引き出しも必要だと思いますが。

「その引き出しも出し尽くしてしまったら空っぽになってしまいますし、だから役者はどこまで行っても終わりがない仕事だと言われるんだと思います。特にアニメはメインキャストほどオーディションで決まるシビアな世界ですし、黙っていて仕事が来るわけではないんです」

──今年も主人公を演じるアニメ作品が複数控えていますが、小野さんほどのキャリアと実績があっても挑戦を続けているんですね。

「むしろ新人のほうが、小さい役であってもオーディションなしで現場に呼んでいただけるチャンスがあると思います。僕もかつてはそうでしたし、あんなに下手だったのによく使ってくれたなという感謝しかないですね。ただ僕としては、あの下手な芝居を自分の名前で世に出すのがすごく恥ずかしかった。その苦い経験があるから今も『まだまだだな』という気持ちがありますし、勉強は続けなければと思っています」

――所属されているアニモプロデュースの養成所が昨年10月に赤坂へ移転され、小野さんが特別講座を開講されたそうですが、生徒の皆さんに将来性など何か感じられましたか？

「大前提として、役者が役者に対して何かを言うのはちょっと違うなと思っているんです。人それぞれ感じ方も表現の仕方も違いますし、僕がアドバイスすることで僕っぽい人が量産されていくのも違うと思っていて。自分のオリジナルを目指してほしいです。ただ、普段お芝居をしていて『これはこういう風に聞こえるんじゃないか』とか『もっとこうしたら上手く伝わるんじゃないか』と言語化する機会があまりなかったので、すごくいい経験になったし、みんなが頑張っている姿を見て、僕も頑張ろうという気持ちにさせてもらえました。アニモプロデュースに入って、活躍してほしいと思います」

──小野さんを目指す声優志望者にアドバイスをいただけますか？

「今の若い人は本当に芝居が上手で、僕なんかより技術があるんじゃないかと驚かされる方もたくさんいます。ただそこから一歩抜けるためには、冷静に自分の芝居なり声なりを見て『この役者にギャラを払いたいか？』を判断する"他者の目線"を持ってみるといいと思います。自分にダメ出しするのはしんどいですが、仕事としてやっていきたいのであればそういう時期は決して無駄にならないと思います」

──最後に30年間、この仕事を続けて来られたモチベーションを教えていただけますか？

「作品のたびに出会う人も役も変わる、いつまでも飽きない仕事というところは大きいですね。あと個人的な喜びとしては、自分が担当したキャラクターのLINEスタンプが出るとめちゃくちゃ嬉しいです(笑)。そのスタンプに思いを乗せて送れるのは、声優ならではの特権だなと思いますね」