若き名バイプレイヤーとして出演作を重ねる俳優・前原滉。2022年は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』や連続ドラマ『ユニコーンに乗って』などに出演して注目を集め、主演映画『散歩時間〜その日を待ちながら〜』も公開中だ。その前原がデビュー前に修行を積んだ俳優養成/演技研究所のトライストーン・アクティングラボ（TSAL）で、現役受講生に向けたトークを開催。俳優を目指すに至った高校時代の挫折や、講師からもまったく認められない"窓際族"だった受講生時代など、当時をよく知るスタッフの鈴木さんに引き出していただいた。

──前原くんは仙台出身で、TSALのオーディションを受けたのは2011年3月。つまり震災の直後だったわけだけど、影響はなかった？

前原滉「当時は良くも悪くも楽観視してたところがありました。後々になって大変なことが起きてるって理解できたし、30歳の今だったらもっと重く受け止めてたと思います。でもあのとき楽観視できたから、今ここにいられるわけで──。ともかく最初の1年間は夜行バスで週1回、東京まで通ってました。なんとか交通網があったのも幸運だったと思います」

──仙台から夜行バスということは……。

前原滉「夜12時に出て東京に5時に着いて、レッスンは12時から。知り合いもいない中、6時間潰すために無駄に歩き回ったりして。今も地方から通ってる人っているんですか？　（数人の手が挙がる）。ああ、しんどいですよね。でも当時はそれが当たり前だと思っていたから。あの経験が身になってるかどうかわからないけど、でも二度とやりたくないです(苦笑)」

──そもそもなぜ俳優になろうと思ったの？

前原滉「高校時代に後悔を残したことが大きかったですね。僕の高校はサッカー強豪校で、中学時代の友人と『全国大会に行こう』って約束してその高校に入ったんです（前原は中学時代に市のサッカー優秀選手に選出）。だけど入部の条件が坊主になることで、それが嫌で結局、僕は入部しなかったんです」

──後々、俳優として（NHK連続テレビ小説『まんぷく』で）坊主になるのに？

前原滉「ですよね。当時の自意識って恐ろしいもので、TSALに入ったときには僕、小栗旬さんになれると思ってましたから（受講生から笑いが起きる）。いや、笑うの失礼です(笑)。でもどっかで自分のこと、男前の部類だと思ってたんですよ。今はないですよ、さすがに。でもその自意識が邪魔してサッカーをやらず、ほかに熱くなれるものもなく。そうこうしてるうちに高3になり、中学からの友だちがキャプテンになったサッカー部が本当に全国大会に出場するんです」

──複雑な気持ちだった？

前原滉「羨ましいというのもあったし、自分は何してたんだろうってモヤモヤが残りました。そんなときに母親が連れて行ってくれた舞台が、俳優を目指した直接的な出来事でした。佐藤隆太さんたちが出ていた『ピロクシー・ブルース』という戯曲で、内容はぜんぜん覚えてないんですけど、とにかく役者さんたちが楽しそうで。熱くなれる環境に身を置いてる人たちが羨ましかったのもありました。その日のうちに母親に『俳優になりたい』と言ったのを覚えてます」