D-DAYS vol.154 荒井敦史×池岡亮介

――荒井さんはずっと『熱海殺人事件』に何年も前から憧れを抱いていて、今年上演された『改竄・熱海殺人事件』ザ・ロンゲストスプリングに木村伝兵衛役として主演することが叶いました。そして今回は紀伊國屋ホール改装前の最終公演としての『熱海殺人事件』に主演します。

荒井「僕が必要以上に出たい、出たいと言っていたのは、一度出るチャンスがありつつ、ちょっとしたタイミングで叶わなかったという経験があるからなんです。手が届くと思った瞬間、なくなったときの感情として、僕の場合は執着する気持ちが強くなってしまった。僕が最初に観たときの木村伝兵衛は、2014年の馬場徹さんの『熱海殺人事件 Battle Royal』だったんですが、当時は役者を始めて数年が経ち、稽古で怒られたりしながら悩んでいたような時期で。紀伊國屋ホールに観に行って、頭の演出と芝居に圧倒されてしまった。“この人、カッコイイ！”と思って、強く憧れを持ち、追いかけるようになったんですね。過去の作品をいろいろを見ましたが、伝兵衛をやるには、いろんな条件があるなと思っていて。まず、華があるとかないとかじゃなく、その場所に伝兵衛としてそこにしっかりと存在していなければいけない。実は作品の主役っていうのは、結局は大山金太郎だと思っているので」

池岡「えっ!? 大山が主役って、今ちょっとハードル上げられた気がしたけど!?」

荒井「大山金太郎は、やっている役者も気持ちがいいと思うよ。感情をフルに出すから。でも伝兵衛は全部出せない。最終的に、伝兵衛にはすべてを包み込めるような存在感がないといけないと思っている。そこが役者目線で見て、すごくカッコイイと思ったし、魅せられて憧れるようになったんだけどね」

――役者の技量が試される作品でもある？

荒井「そうですね。そんなすぐにできるような役じゃないですから。膨大な台詞も、目の前の観客を飽きさせず、むしろ引き込みながら早口で出すわけです。ゆっくりでは成立しないんですよね。しかも、伝兵衛の場合は感情台詞じゃなくて、状況台詞。感情の部分は金ちゃん（大山金太郎）が担っているので、実質的な主役ではないという、ある種の孤独さがある。それは、一度やってみて感じました。伝兵衛って報われない役なんだなって（笑）」

池岡「そうなの？」

荒井「まぁイケは金太郎役として、イケの中にある変態性を全部出せると思うよ。これは褒めているんだけどね（笑）」

池岡「そういう役が多いんだよなぁ」

荒井「全部を持っていける役なんだよ。しかも、そういうブロックが後半にあるから。ラスト30分で金ちゃんが全部持っていく。でも伝兵衛もちゃんと持ち返さないといけない。そこがすごく大変なんです」

――大山をやることで何かが開花するとか。

荒井「イケはもう開花してるから（笑）」

池岡「いやいや、もう最近は枯れぎみ…いや、『�K世界』でやった雷山はめちゃくちゃ楽しかったな（笑）。僕も、もともと上手い役者というわけじゃないから、自分なりに台本と向き合うしかなくて。あとは周りのキャストに甘えてね。だから今回も、あっちゃんには甘えさせてもらうから！」

荒井「いや、僕も甘えたいよ。でも現場に行ったら、芝居での殴り合いになるんだよ（笑）」

池岡「確かに、自分の中で余裕がなくなる作品のような気はする。『ロマンス2015』のときも、あんなに台詞量の多い役は初めてだったし、初日が開けるまで、ものすごく不安だったんです。開演前まであんなに台本にくぎ付けになってセリフしゃべってることなんてなかったし。そんな中で、初日当日、本編とは別に、他のつか作品の予告編の芝居を作ることになり、新たな台詞を大量に足されて。“これは無理だ！”と諦めて、初めて舞台上でカンペ出しました…」

荒井「それは意外と許されるやつだよ。そこで諦めず、最後までカッコつけようとして、結局台詞が飛んじゃったという某役者のことは伝説になっているからね（笑）。自分がやったことだと、つかこうへい七回忌特別公演の『新・幕末純情伝』（2017年）のときかな、予告編で『広島に原爆を落とす日』のディープ山崎の役をやったことがあって。しかも、そのとき客席に歴代ディープ山崎をやった筧利夫さんと馬場徹さんがいて。本編が終わったあとの予告編で、お二人の前でディープ山崎をやったときは、もう手も足も全部震えました（笑）。そのあと、岡村さんのところに筧さんから電話がかかってきて、『荒井と味方（良介）で『熱海〜』をやれ』と言ってくださったらしく、僕らはそこからの縁なんです」

池岡「へぇ〜！」

荒井「つか作品って、歴代キャストが稽古場に来るのよ」

池岡「あ、それはなんか覚えがあるな」

荒井「それがまたプレッシャーになる（笑）。『熱海〜』の稽古場も、つかさんの作品が好きな人が集う場になっているからね」

池岡「僕は個人的には、石田明さんと共演できるのがすごく嬉しいんです。お笑い芸人さんが大好きなので、まともにしゃべれるかドキドキしているんだけど、ファンの感覚で話しかけていっても受け入れてくれるかな？」

荒井「それは大丈夫、きっと喜んでくれると思うよ（笑）」