――歌やダンスのスキルがあって、そこから役者の魅力にハマる人もいます。

荒木宏文「そう、だからどちらもあっていいと思うんです。歌が得意な子が入ると、こういう作品になるんだなって。ダンスもそう。役者の僕からすると、役者として入ってきた子たちが埋もれないように、初期段階で芝居について勉強してもらえるような環境で、いろんなことを覚えていって欲しい。そういう場があったらと考えていたときに、演出として関われる機会が得られたので、参加させていただきました」

――『アイドルマスターSideM』はライブパートもありました。

荒木宏文「歌とダンスを必要としないわけではなく、やるべきことはやらないといけない。大事なのは、ライブパートになったときも役でいることなんです」

――お客さんも、その辺は敏感ですよね。

荒木宏文「そうなんです。歌が上手いのと、役としての歌の表現になっているかはまた別なことで。それは演者自身の歌声やパフォーマンスであって、役ではないよっていう場合もある。そこを理解していない場合は、歌っても踊っても役のままでいられるように役作りをしようねってことをまず伝えないといけないと思うんです」

――上手くやらなければ、っていうところに意識がいってしまうのでしょうか。

荒木宏文「その分野で自分に自信があればあるほど、よく見せたくなるものだと思います。役作りということに執着を持たない限り、そこの修正って難しいんです。アイドルって、歌もダンスもお芝居も、いろんな芸能活動をオールマイティーにやられる人たちじゃないですか。以前、中居正広さんが『アイドルは未完成で、完成に近づいていく様を応援したいと思うファンが集まる場だから、未完成であり続けなければいけない』というようなことをおっしゃっていましたが、同業者からしたら、ミスターパーフェクトなんですよね。アイドルの人たちって。なんでもできるようになる、その姿を支えたいというプロデューサー目線でアイドルを育成していくところで、あのゲームは人気を集めている。そこを演じるためには、“なんでも完璧にやらなければ”というプレッシャーを感じながら役作りをしないと……という意識が必要なんです。そこを理解しながら役作りをする演劇なら、僕はすごく意味があると思ったし、役者が育つと思って取り組んだんです」