――いつぐらいから外部作品のオーディションを受けるようになったんですか？

田中亨「劇団Patchに入ってから3年目ぐらいだと思います。先輩から、『自分は受けられないけど、この劇団はおもしろいから誰か受けてみなよ』って教えてもらったこともありましたね。『僕、ちょうど東京行くので受けてみます』みたいな感じで、オーディションを受けたり、本当に人の縁に恵まれていました」

――向き合い方や考え方が変わったなど、転機になった作品は？

田中亨「オーディションに受かって出演させていただいた作品で言うと、iakuの『あつい胸さわぎ』（2019年）です。全編関西弁のお話で東京と大阪で公演をやったのですが、当て書きしてくださったこともあり、演じているときに変な力みがなくて、自分自身と役が混ざり合って不思議な感覚でした。“こんなお芝居があるんだ!?”と体感して、おもしろい！と実感して。iakuの作品に出たことで、オフィスコットーネプロデュースの『墓場なき死者』という、僕にとってはじめての翻訳劇の出演にもつながったんです。さらにそれを観た方が数年後に声をかけてくれるという、その連鎖の原点はiakuの作品だったので転機だったなと。あと末満（健一）さんのTRUMPシリーズ、『COCOON 月の翳り星ひとつ』（「月の翳り」編）に出たときも、相当鍛えられました。末満さんが実際に演じて見せてくださった動きを動画に撮って、それを必死で覚えて真似をするということを繰り返しやったりして。ハードな日々でしたが、末満さんが『田中はこれから絶対に伸びるから』と言っていたと伝え聞いて、頑張ろう！という気持ちになりましたし、今思うといろいろ吹っ切れたというか、一皮むけた感じはありました」

――次回作はパルコ・プロデュース『Touching the Void タッチング・ザ・ヴォイド〜虚空に触れて〜』。こちらはオーディションで役を得たんですよね。

田中亨「はい。今回の演出家が海外の方なので、オンラインでイギリスと繋いでのオーディションだったのですが、通訳していただきながら、演出のトム・モリスさんとのオーディションに参加しました。イギリスで上演された同舞台の映像を観たうえで、いくつかのシーンをやってみるという内容で。結構なセリフ量だったので、何度も見て必死に覚えようとしたんですが、完璧には覚えきれていなくて。“これは絶対に落ちたな、でもいい経験になったな”と思っていたら、出演させていただくことになって、すごく嬉しかったです」

――わからないものなんですね。手応えがあったけど落ちていたというパターンもあるんですか？

田中亨「あります。“これはうまくいったんじゃないか!?”と思っていたのに落ちると結構傷つくので（笑）、あまり期待しなくなりました。オーディションが終わった時点で満足するぐらいのほうが、精神的には安定していられるんですよね。“受かっていて欲しいなぁ”と思う気持ちを押し殺して、一旦頭から消すようにしてます。大きな作品になるほど、“これSNSで発表したいなぁ”って思っちゃうんですけどね（笑）」