【デビューセミナー】杉咲花主演映画『市子』戸田彬弘監督 ”俳優志望者のための”トークイベント
2023/12/07
「これからはより自分で気づいて自分で行動する人じゃないと残っていけないのかなと思っています」
――そういった中で、今の業界で新人に求められているものというのは?
戸田監督「1年くらい前から、この業界でもハラスメントの問題が話題になっている背景もあり、ハラスメントをしてきていない演出家や監督たちもダメ出しや伝えることに対して躊躇しているような流れがあるなと、僕自身も感じていて。それを想うと、これからはより自分で気づいて自分で行動する人じゃないと残っていけないのかなと思っています。ダメ出しをされたり、教えてもらったりする中で気づいていけるような、昔の雰囲気はどんどんなくなっていくのかなと。コロナ禍もあり、稽古場終わりに飲みに行くという機会もだいぶ減ってきて、稽古場以外のコミュニケーションの場がなくなると、ある意味、対人間としての距離も詰められず、信頼関係を作りにくい中で、突っ込んだ言葉を相手に投げるということがなかなかできないなというのは、身を持って感じています」
――現場で意見をもらいに行くという姿勢では、今後は通用しない。
戸田監督「意見をもらいに行っても『良かったと思うよ』みたいな感じで、優しい言葉を返されることが多いかと思いますし、もちろん、良かったから良かったと言っていると思うのですが、その先にある更に突っ込んだいわゆる辛辣な言葉ってなかなかもらえないんじゃないかなと。監督や演出家が言おうとしている言葉の芯を、自分で汲み取れる人じゃないとダメというか、上っ面の言葉しか拾えない人はなかなか難しくなっていくんじゃないかなと思っています。つまり、気づきを与えて貰う機会が減っていくので、自分で気づきを見つけられる人じゃないと難しいってことだと思っています」
――俳優を目指す人たちが、普段からこういうことを心がけて生活すると良いというような、アドバイスがあればお願いします。
戸田監督「自分が好き・嫌いとは別に、世間的に良い作品と評価されているものなど、たくさんの作品に触れることは大事だと思います。僕が映画を見始めた2000年頃というのは、今のように配信なんてありませんでしたし、田舎に居たので観られない映画もたくさんありました。なので、毎週TSUTAYAまで原付バイクを飛ばして行って、1週間レンタルで5本借りて、返却したらまた5本借りて…みたいなことを永遠に繰り返していて。ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーとか、当時は全然わからなかったけど、ヌーヴェルヴァーグと呼ばれている映画界のすごい時代の人たちがいるということを知って、とりあえずその人たちの作品を観ようと、作品をたくさん観ました。僕はハマらなかったのですが、でも観ないといけないなと思って。日本だと溝口健二さんや小津安二郎さんなど、日本映画の黄金期の人たちの映画も見ました。傑作といわれている沢山の作品を観ましたが、好きだなと思うものもあれば、苦手だなと思うものもありましたが、やっぱりそれを知っているかどうかってすごく重要だなと。好き嫌いと良い悪いとは違うので」
――自分が好きな作品ばかり観るのではなく、名作などいろんな作品に触れることが大事ですよね。
戸田監督「趣味で良いのならば、好きなものをたくさん観るというので良いと思いますが、仕事にするとなると、それではダメだし、良い作品をたくさん観ることが大切だと思います。多くの映画監督もそういった作品を観ていることが多いですし、そうすると共通言語が持てたり意思疎通を取りやすくなったり、自分の中で求められているもののイメージやビジョンも持ちやすくなると思います」
――12月8日に公開される映画『市子』のお話もおうかがいできればと。もともとは戸田監督が作られた舞台が原案になっているということですが、こちらを映画化する中でどのようなことを考えられたのですか。
戸田監督「僕は演劇を学ぶ大学を出ていて、いわゆるアングラ(アンダーグラウンド)を主軸とする先生たちに教わっていました。エンタメを重視した演劇ではなく、野田秀樹さんやつかこうへいさんのような舞台を想像していただくとわかりやすいかもしれませんが、素舞台に近い状態で、俳優の体と俳優の言葉で見せていく演劇スタイルをやっていました。原作の舞台『川辺市子のために』も、そこにある俳優の身体と言葉(モノローグ)を生かして、そこから観客が想像を飛躍させていくようなスタイルの舞台で。そういったものは、演劇としての特性だと思っていたので、それを映画にするとなったときに、そのまま映画化したのでは、戯曲に書かれている本質や内容が映らないなと思って、そこにすごく苦労しました」
――具体的にはどのような部分ですか?
戸田監督「第三者の証言で“市子”という女性が浮かび上がってくるというのは、舞台も映画も同じなのですが、舞台の場合は市子の役を演じた役者はいるのですが、すごく抽象的に舞台上にいるんです。そこに存在しないけど、その人が証言したことの再現として具現化されたものというか、主体性がないものとして存在していて。それは演劇ならキャッチしやすいものなのですが、それを映画で、市子役のシーンとして映していくと、市子の主体性が出てきてしまうというか、映画の場合は映ったものの真実性(現実性)が強く出てきてしまう。となると、彼女の発言や行動が、本当の彼女の言葉や行動なんだというふうに見えてしまうし、それでは原作とは違ったものになってしまうので、映画では、市子の主観のシーンだったり、市子の主観のカメラポジションは一切排除して撮影しました。“周りから見た彼女がどう映っているか”しか撮らないようにして徹底してやるという形に、台本を書き換えていったりする作業がけっこう大変でした」
映画『市子』
2023年12月8日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテ ほか全国公開
誰の目にも幸せに見えた彼女は忽然と姿を消した――
川辺市子(杉咲 花)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪。
途方に暮れる長谷川の元に訪れたのは、市子を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)。後藤は、長谷川の目の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生…と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は部屋で一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。
配給:ハピネットファントム・スタジオ
◆公式サイト
https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/
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