【デビューセミナー】杉咲花主演映画『市子』戸田彬弘監督 ”俳優志望者のための”トークイベント
2023/12/07
「『市子』が世界で最初に上映された釜山国際映画祭では、映画を学んでいる学生らしき若者からのクリエイティブな質問がすごく多かった」
――だからこそ、杉咲花さん演じる市子が、その人が語るシーンごとに表情が変わったり、別人のように見えたりしていたんですね。
戸田監督「そこはやっぱり杉咲さんの芝居がとても素晴らしかったんだと思います。映画全体を見たときに、市子のキャラが合致しないというか、お客さんは勝手にそこを同じ人物だと繋げようとするけど、違和感というか、ハマらないピースみたいに見えて、彼女は一体何だったんだろう?という、そういう感情になるのかなと思います」
――どのキャストさんもすごく繊細な表現をされていて、とても素晴らしいなと思ったのですが、今回、監督としてはどのような演出をされたのでしょうか。
戸田監督「僕は基本的には動きや感情の方向性のような細かい演出はあまりしなくて、俳優さんたちに対しては、何を感じてどう思っているのかというのは、必ず聞くようにしています。“監督としてはこう思う”というのは伝えますが、最終ジャッジというか、ワンテイク目はそれを踏まえて俳優に任せています。どうしても違うなという時は伝えて修正するということもありますが、基本的には俳優に自由に表現してもらいたいので。そのためにも、いつもクランクインする前に、できる限りのことを伝えておきます。『市子』に関しては、実際には撮影しないけど、映画の中ですごく重要になるだろう時間・出来事みたいなものを大量にサブテキストとして書いて渡しています。それは役作りとして、実際の撮影台本には書かれていないところを埋めてもらうために渡したのですが、みなさんそれをすごく大事にしてくれたんじゃないかなと思っています」
――市子の主観を排除したカメラワークとおっしゃっていましたが、ハンディカメラでドキュメンタリーっぽくも見えるような撮影が印象的でした。どんなところにこだわったのですか?
戸田監督「今回は証言者の主観でしか撮らないと決めていたので、たとえば証言者が“とある家の中で起こっている出来事を家の外から見ている”というシーンがあって、セオリー通りだったらドラマが家の中で行われているのであれば、家の中にもカメラを入れて撮影するのですが、証言している彼は、ベランダでそれを見ているので、ベランダ側からしか撮っていないんです。そういう感じで、その証言者の主観としてしか絵は獲れないハズというルールを作ってやっていました」
――観ていて没入感があったのは、そういうカメラワークもあったからなんですね。今回の作品は、第28回釜山国際映画祭や第36回東京国際映画祭にも出品され、監督も参加されていましたが、そこでの反響はいかがでしたか。
戸田監督「『市子』が世界で最初に上映されたのが釜山国際映画祭だったのですが、釜山映画祭には映画を学んでいる若い学生が国中から集まる習慣があるそうで、Q&Aでも学生らしき若者からのクリエイティブな質問がすごく多かったです。映画の中で描かれているセリフに対しての質問や、あのシーンはどういう意味だったのかとか、そういう反応がすごく多かったですね。あとは、批評家の方や業界の方が観に来てくださったときの感想としては、“観たあとにすぐに感想を出せない”という声も多かったり、杉咲さんの芝居の評価がとにかく高かった。それと、台本の構成が面白いとも言っていただいたりしましたし、演劇が原作だというのは想像できないというのもすごく言われました」
――今回のセミナーには、俳優志望者が多く参加しています。そういう人に、この作品のどこに注目して観てほしいですか?
戸田監督「杉咲花さんや若葉竜也さんがインタビューなどで言っていたことではありますが、若葉さんは長谷川という役を演じていて、長谷川を通して市子を追いかける構成なので、観客と同じような目線に立つ役柄ということもあり、若葉さんは市子の過去に関わるシーンの台本はほぼ読まないという選択をして撮影に臨まれていて。それって俳優としてはすごく怖いことだとは思うのですが、あえてそれを選ぶことによって、自分の中で出来る限り鮮度を保つために取り組んだと話されていました。杉咲さんに関しては、満たされない役ということで、減量して、自分の体やいろんなものが満たされない状態を作ろうとされていました。演劇の場合は、稽古があるので台本を読まないというのはなかなか難しいことですが、そういう意味でいうと、映画って役作りや演技、表現方法がいろいろあって面白いなと。僕自身もこれはリアリティがあるものにしなきゃいけない映画だと思っていたので、基本ワンテイクが多いです。テイクを重ねてしまうと、カメラマンも俳優も整ってくるというか、慣れてきてしまうので、ドキュメンタリーっぽい、その生っぽさみたいなものが消えてしまう。そういった意味で、できる限りワンテイクで撮りました。なので、そういういろんな背景を考えながらみると、何かを盗めたり、刺激になったりするのかなと思います」
――では最後に、参加者へのメッセージをお願いします。
戸田監督「大谷翔平選手が、WBCの決勝で『憧れるのをやめましょう』とおっしゃっていましたが、芸能界も全く同じだと思っています。憧れているだけの人って、面接していてもすぐにわかっちゃうんです。芸能界の現実って、かなりハードですし、それなりに映画とかで見る俳優さんでもアルバイトしていたりする現実もあって。憧れだけで挑戦するのではなく、現状の自分は今どんな状態で、ここからどんな風に一歩ずつ歩んでいかないといけないのかをきちんと把握し、1年後、3年後、5年後先のリアルな目標を立ててやっていくことが大事だと思います。自分の現実をちゃんと見て、未来を想像したときに、それを歩く自信がないなら、そこで辞めたほうがいいんじゃないかなと。プロとしてやっていく道以外にも、社会人演劇や自主映画をやっている人たちもいるので。でも、本当にこの世界を目指すのであれば、憧れではなく、きちんと現実を見て、目標に向かって1つ1つ努力をして、1個のチャンスを自分が掴むんだ!という意識で、オーディションにも本気で準備して自信を持って臨むことが大事だと思います。そうやって臨んでもオーディションには落ちたりするので、何度落ちてもやり続けるしかないと思います。それをやり続けていれば、誰かは見ていると思うし、自分の糧にはなっていくから成長にも繋がる。すぐに結果は出ない業界だと思います。僕自身も一体何本映画を撮ればいいんだと思いながら20年やってきています。厳しい業界ではありますが、その分、得るものもたくさんあると思うので、ぜひ頑張ってください」
映画『市子』
2023年12月8日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテ ほか全国公開
誰の目にも幸せに見えた彼女は忽然と姿を消した――
川辺市子(杉咲 花)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪。
途方に暮れる長谷川の元に訪れたのは、市子を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)。後藤は、長谷川の目の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生…と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は部屋で一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。
配給:ハピネットファントム・スタジオ
◆公式サイト
https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/
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