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2020/11/17 07:01
17歳の女優・原菜乃華、『罪の声』の胸締め付けられる演技が話題に「女優を続けられるか考えていた時期で、作品に懸ける想いはすごく強かったんです」
35年前に日本を震撼させ、未解決のまま時効となった劇場型犯罪をモチーフに、綿密な取材と斬新な着想により、圧倒的リアリティを備えたヒューマンミステリーに仕上げたベストセラー小説を、小栗旬と星野源の顔合わせで映画化した『罪の声』。大ヒット上映中の本作において、犯行テープに自身の声を使われ事件に巻き込まれてしまう少女・生島望を演じ、その演技が高く評価されているのが、17歳の女優・原菜乃華だ。土井裕泰監督から「この映画の中で希望の存在」として託された生島望役を演じ切った原に話を聞いた。
1984年から85年にかけて、警察とマスコミを翻弄し日本中を巻き込んだ一連の企業脅迫事件。時を経て事件の真相に迫る企画を担当することとなった新聞記者・阿久津英士(小栗)。阿久津は取材の過程で、京都で老舗のテーラーを営む曽根俊也(星野)にたどり着く。家族3人、幸せな家庭を築いていた彼は、ある日父の遺品の中の古いカセットテープを見つける。録音されていたのは、35年前の事件で身代金受け渡しを指示する脅迫テープの音声。その声を聴いた俊也は戦慄する…“俺の声だ”と。
阿久津と俊也は、共に事件を追う中、事件に関わっていたと思しき生島秀樹(阿部亮平)、そして忽然と消息を絶った一家のことを知る。生島の娘で中学生の生島望(原)は、俊也と同じく、事件の脅迫テープに声を使われた子どもの1人だった……。映画字幕の翻訳家になるという夢を友人に語り目を輝かせていた日常から、「あのテープのせいで一生台なしや!」と絶望の淵に立たされる望。しかし「絶対絶対夢叶える!」と、過酷な状況でも希望に向かって抗い続ける望の姿が、観る者の胸を締め付ける。
原は生島望役をオーディションで獲得している。その審査の段階から、望には深く感情移入していたようだ。「どんな作品かは聞かないまま、当日に最後の電話のシーンの台詞をいただいて。1回目は自分に寄せて、実際に仲の良い友達に電話していると思って、自分の中で勝手に過去を作って演じました。2回目を演じる時に、監督から状況設定を聞いたんですが、それを聞いている最中に本当に泣きそうになってしまって。2回目は望ちゃんに近い感情で演じることができました」(原)。即座に役に寄り添える感受性。それがキャスティングの決め手だったのだろう。
現場に入るまでの間に、原は自分をどんどん追い詰めていった。「望ちゃんの置かれている状況について、誰とも会わずに考える時間を設けてみたり。望ちゃんは友達と全然連絡が取れない状況なので、自分も連絡を絶ってみたりとか。そういうことをしながら、どんどん気持ちも追い詰められていきました。現場に入ったときに土井監督が『望ちゃんはこの映画の中で希望の存在だから、前を向くことは忘れないでほしい』と教えて下さったので、それだけを胸に留めてお芝居をしていました」(原)。
そんな原の想いを、監督を含む現場スタッフはしっかりとすくい取り、バックアップする。「最後に友達に電話をかけるシーンの撮影のときは、ドライ(リハーサル)から涙が止まらなくなってしまって。そのときに土井監督が『もうカメラを回そう』と言ってくださって、各部署の方が即座に対応してくださったんです。すごく包容力のある現場だなと感じましたし、お芝居のしやすい環境を作ってくださるスタッフの皆さんで、本当に救われたなと思っています」(原)。
感情の振幅が大きく、激しい感情を爆発させるシーンもあるが、共演者の支えも大きかったようだ。「現場に入っている間は、本当に気持ちが落ち込んでいて…。でもお母さん役の篠原(ゆき子)さんが、『思いっきり来ていいよ』って言ってくださって、“受け止めるから”という姿勢でいてくださったのが有難かったです。役についても撮影が始まる前にすり合わせたりして、お母さん役が篠原さんで本当に良かったなって思いました」(原)。
結果として、高い評価を得ることとなった本作の原の演技。生島望役は、彼女の女優としてのキャリアのなかでどんな意味があったのだろうか? 「今まで演じた役の中でもすごく辛い役でしたし、この映画のオーディションを受ける少し前まで“これからちゃんと女優としてやっていけるんだろうか…?”みたいなことを考えていた時期だったので、この作品に懸ける想いはすごく強かったんです。自分の中でとても大切な作品ですし、試写を観たときに、こんなに素敵な作品に自分が携われたんだっていうことに幸せを感じました。不安になったりもしましたが、この作品に出られたことが私の中で大きく、女優を続けられる原動力にもなりました」(原)。
近年事務所を移籍し、演技を取り巻く環境も変化。それに伴って演技に対する考え方も変化しつつある。「お芝居について、親身になって話してくださる先輩がすごく多い、アットホームな事務所なので、分からないことを相談できる環境は有難いです。今までは“ちゃんとやらないと”という思いが強くて…今でも強いんですけど、でももう少し“こう演じたい”“こういうやり方もあるかもしれない”って考えてもいいのかなと最近思うようになりました。“間違えちゃいけない”というよりは、“こっちのほうが面白いかもしれない”ってチャレンジする気持ちが出てきたのかもしれないです」(原)。
女優としての欲が出てきたからだろうか、そう語る表情からは充実感も感じられる。「今はたくさんの作品に出たいですし、たくさんオーディションを受けたいし、たくさん吸収したいなって思っています。どこにいっても勉強になるから」と意欲を見せる原。「今回の作品で、また新しいオファーがたくさん来るかもしれませんね」と言うと「来たらいいですね!」と笑顔を見せた。
彼女のように、役者として輝くことを夢見る同世代に向けてメッセージをもらうと「自分自身、すごく悩むし、ちょっとしたことで落ち込んだりもするし、ヘコんだりもするから、前向きになれ!なんて言えるような感じじゃないんですけど…。“次! 次!”って切り替えることも大事だなって最近思います。ここがダメだったって反省することも大切かもしれないけど、やっていくうちにどんどん慣れてくるし、止まっている時間は無い!みたいな思考のほうが、上手くいくのかも。難しくて私もなかなかできないんですけどね」と、経験を踏まえた、自然体の答えをくれた。
今回、かなり自分を心理的に追い込んだように、役者は本当にしんどい仕事であるはずだ。最後に「女優のお仕事は好きですか?」と聞いてみると「好きです。楽しいです。今までとは、またちょっと違った楽しさを感じられるようになったなって思います」と実感を込めて答えてくれた。まだまだ大きく飛躍していくであろう女優・原菜乃華のターニングポイントを、映画『罪の声』で目撃してもらいたい。
映画『罪の声』は全国東宝系にて公開中。
ヘアメイク:野中真紀子 スタイリスト:津野 真吾(inpiger) 衣装協力/ワンピース:Wild Lily、イヤリング:OSEWAYA