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2020/01/06 18:01
『あなたの番です』の管理人役で話題の俳優・前原滉「2020年はクサビを打ち込むような役を演じたい」
2019年はNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』への出演を皮切りに多数の映像作品に出演。ドラマ『あなたの番です』の管理人役・蓬田蓮太郎役で、多くの視聴者に知られるところとなった前原滉。今年も1月から舞台に挑戦するなど、俳優としてステップアップを続けている。小栗旬や田中圭、綾野剛らが所属するトライストーン・エンタテイメント直営の俳優養成/演技研究所「トライストーン・アクティングラボ」(TSAL)に学び、トライストーン・エンタテイメントの所属になって5年目に突入する2020年。「チャレンジ性の高い役を選んでいく」と意気込む彼は、TSALの後輩たちの希望となっている。
──昨年はNHK大河ドラマ『いだてん』の第1話登場からのスタートとなりましたが、Twitterで小松原くん」がトレンド入りしていましたね。
「『いだてん』の役名は平田だったんですが(笑)。朝ドラ『まんぷく』で演じた小松原を覚えていてくださった方がけっこういたみたいです。髪もそのまま坊主だったからかな」
──さらにドラマ『あなたの番です』で演じた管理人・蓬田蓮太郎で、認知もグッと広がったのでは?
「そうですね。やっぱりあのドラマのインパクトは大きかったみたいで、いまだに“管理人さんだ”って言われることが多いです」
──それは街を歩いていてとか?
「本当にたまーにですけど、昨年は声をかけられることが何度かありました。こういうことに慣れてないので、声をかけられた瞬間はびっくりしてばかりで。あとからジワジワうれしさが込み上げてきますね。作品を見てくれたんだなという」
──プロフィールを拝見しても、昨年は実にたくさんの作品に出演されました。仕事の上でどのような変化を感じますか?
「共演者さんもスタッフさんも、“前原滉”という固有名詞で認識してくれている方が増えたのを感じます。一昨年くらい前までは現場でも、“誰だこいつは?”みたいなところがあったと思うんですよ。また僕も僕で、その頃はまだ借りてきた猫じゃないけど“ここにいていいのかな?”みたいな居心地のむずがゆさみたいなのを感じていて。でも振り返ってみると、その状態は強みでもあったと思うんですよ。ぜんぜん知られてないわけですから、ちょっとした芝居でも印象を残しやすいんです。だけど作品を重ねていくと、そういったインパクトみたいなものはだんだん薄れていくわけで、より深く取り組んでいかないと“この芝居、前も見たぞ”となってしまう。ありがたいことに2019年は前に出た作品を見てくださってオファーをいただくことも増えたんですが、そういった新たな課題も感じていました」
──2019年のお仕事で印象的だった出来事を教えていただけますか?
「やっぱり初めて映画で主演をやらせていただいたことですね。公開はずっと先になると思うんですが。いままで僕が映画のスクリーンで見てきたベテランの俳優の方々とご一緒させて頂き、その方たちに改めてこの仕事に対する夢をもらったんです。その方たちを見てると、純粋に芝居が好きなんだなというのがヒシヒシと伝わってくるんですよね。役者をやってる人ってみんな、スタートは『好き』から始まると思うんです。だけど長くやっていく中では、好きだけでは突き進めない時期もきっとあって。うまく言えないけど、いろんな方と共演させてもらってきた中には、“この人、仕事としてこなしてるんだろうな”と感じた役者さんもいらっしゃって。もちろんそれは決して悪いことじゃなくて、仕事としてきちんと“こなせて”いるのはすごいことだと思います。だけどこの映画で共演させていただいた方たちって、そういうものがすべて削れて、最終的に“やっぱり芝居が好きだ”という純粋なところに戻ってきている感じがしたんですよね」
──役者としての理想像に出会えたんですね。
「はい。またそういう方の芝居って本当に魅力的で、見ているだけで幸せな気持ちになれるんです。もちろん僕はまだ駆け出しみたいなものですから、仕事として芝居を“こなす”域にすら達していないですけど、いつかそんな時期が来ても怖くないと思えたんですよね」
──TSALからトライストーンエンタテインメントに所属になって、2020年で5年目。今はどんな時期だと感じていますか?
「さっき言った新たな課題を乗り越えるためにも、チャレンジ性の高い作品に挑んでいこうとマネージャーさんとも話し合っています。1月から始まる舞台『FORTUNE』はまさにチャレンジですね。これまで舞台ってほとんど経験がないんです。それこそ所属になる前は、自分で応募して小劇団に出させてもらったことが何回かありましたが、こんな大規模な作品は初めてで──。正直いうと、最初にオファーをいただいたときには、マネージャーさんに“まだ僕には早いです”と言ったんです」
──そのお気持ちが変わったのは?
「ドラマ『あなたの番です』が大きかったですね。あの作品は舞台経験が豊富な方が多くて、またそういう方ほど際立って面白い芝居をされるんです。映像で見ててもそうですけど、現場ではみなさんの引き出しの多さをすごく感じて。そんな現場を目の当たりにして、舞台を経験することで何かつかめるものがあるんじゃないかと、一気に気持ちが前向きになったんです」
「僕自身がいい仕事をすることによって、結果的に業界の方や俳優を目指す人がTSALの存在を知ってくれれば」
──現在は絶賛稽古中だそうですが、いかがですか?
「いや、もう、明らかに自分の技術のなさを認めざるを得ないというか……。映像の作品を重ねてきて、“できるんじゃないか”と思ってたところを打ちのめされましたね。稽古をやっていて感じるのは、舞台の芝居って正解を出してはいけないんだなということ。“これが正解だ”ということでやってしまうと、そこから動けなくなるんです。舞台は生物だから、毎日同じ芝居は絶対にあり得ないんですよね。そこが映像との大きな違いなんですが、最初の頃は稽古でも正解を求めてしまって。たぶん失敗したくなかったんだと思います。無駄なプライドです(笑)」
──失敗はしないほうがいいとは思いますが。
「でも、こと舞台においては失敗することで新しいものも生まれるんだということが少しずつわかってきました。近道の正解にたどり着こうとするんじゃなくて、いろんな芝居を試して、その中で失敗をしても恐れてはいけないと。とにかく舞台においては素人同然なんだから、映像で培ったものを全部切り離さないとできないと気づいた瞬間がありました。そこから稽古が楽しくなりましたね。ぜんぜん技術は追いついてないですけど、でも楽しい。約2ヵ月続く本番の間も、ずっと楽しめるんじゃないかという気がしています」
──この舞台から始まる2020年は、撮影済みの映画も含めてすでに数々の作品が決まっているとのことです。ちなみに2019年は「恋愛が成就する役をやりたい」という目標を聞かせていただきましたが──。
「そんなこと言ってましたねー。毎年このインタビューで自分の恥ずかしいところを掘られているような(笑)。でも、それで言えば『あなたの番です』で(山田真歩演じる)木下さんとくっついたから、ある意味、目標達成かな(笑)」
──過去にも「舞台挨拶」「金髪の役」などこのインタビューでお話いただいた目標はほぼ有言実行できていますが、2020年は何を目標にされていますか?
「抽象的な言い方になってしまうんですが、僕自身にも見ている方にもグサリとクサビを打ち込むような役を演じたいです。それこそ映画『あゝ、荒野』で演じた自殺研究会のリーダーのような、精も根も尽き果てるくらい自分を追い込まないと挑めないような役に取り組みたいという願望が心の中を侵食しつつありますね」
──それは作品を重ねるごとに、だんだん器用に“こなせる”ようになっているからですかね?
「とまでは思わないですけど、良くも悪くも自分のやりやすい芝居というのがわかってきてるところがあります。だけどそれを超えるためには、究極に追い込まれる時間が必要なんだろうなと。いや、追い込まれるのは辛いですよ。だけど稽古中の舞台でも、追い込まれた先の芝居の面白さみたいなのを実感できているので、久しぶりに映像でもその感覚を味わってみたいですね」
──ところで出身の養成所・TSALには、前原さんを目標とする受講生も増えていると思います。ご自身が後輩にできることについて、どのようにお考えですか?
「まだまだ直接できることなんてないけど、僕自身がいい仕事をすることによって、結果的に業界の方や俳優を目指す人がTSALの存在を知ってくれればいいなと思ってます。TSALで芝居を学んだ役者なら間違いないと思ってもらえるように。同じくTSAL出身の東野絢香ちゃんもすごく頑張ってるんですよね。
」
──TSALの受講生にとっては希望の存在です。
「しかも僕も決して見た目はいいほうじゃないですけど、東野さんもどちらかというと個性派じゃないですか。ということはトライストーン・エンタテインメントはルックスで判断する事務所じゃないということがわかると思うんです。たぶん物好きなマネージャーさんが多いんじゃないかと(笑)。純粋に芝居をやりたい人にとってはすごくチャンスだと思うんですよね」
──美男美女だけでは作品は成り立たないですし、むしろ最近は王道なルックスではないけれど芝居が面白い役者がフィーチャーされることが増えてますよね。
「それを知ってか知らずか、TSALの受講生にも最近クセモノが増えてる気がします(笑)。でもいいことだと思います。自分の見た目を生かすも殺すも役者次第なので。トライストーン・エンタテインメントが、TSALの力でクセモノの比率が上がっていったら面白いですよね(笑)」
■前原滉(まえはら・こう)●1992年11月20日生まれ、宮城県出身。トライストーン・アクティングラボ(TSAL)』でのレッスンを経て、トライストーン・エンタテイメント所属の俳優となる。大河ドラマ『おんな城主直虎』(NHK)『陸王』(TBS)連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)などのドラマや、各映画賞で高い評価を受けた『あゝ荒野』(前篇)、『探偵はBarにいる3』『世界でいちばん長い写真』などの映画に出演。2019年はNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)『スパイラル〜町工場の奇跡〜』(TX)『あなたの番です』(NTV)にレギュラー出演した。2020年は1月13日から東京芸術劇場プレイハウスで開幕する『FORTUNE』に出演。
■PARCO PRODUCE 2020『FORTUNE』
2020年1月13日(月・祝)〜2月2日(日)東京芸術劇場プレイハウス
2020年2月7日(金)〜2月9日(日)まつもと市民芸術館 主ホール
2020年2月15日(土)〜2月23日(日・祝)森ノ宮ピロティホール
2020年2月27日(木)〜3月1日(日)北九州芸術劇場大ホール
撮影/厚地健太郎 取材・文/児玉澄子