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2018/08/31 12:01
宮崎秋人×木村了×和田正人×作・演出 谷賢一インタビュー オリンピックランナーの生涯を描く舞台『光より前に〜夜明けの走者たち〜』への想い
1964年の東京オリンピックを駆け抜けた二人のマラソンランナー円谷幸吉と君原健二の物語を描く、舞台『光より前に〜夜明けの走者たち〜』(2018年11月・12月に上演)。この度、作・演出を手がける谷賢一が、本作の特別監修をつとめる原晋監督と、青山学院大学陸上部の合宿、そして君原氏本人に行った取材をもとに、キャストである宮崎秋人、木村了、和田正人に向けて、レクチャーワークショップを開催した。
谷自身が実際に取材で目にした合宿の様子や、君原からみた円谷幸吉という人物について、当時のマラソン業界のことなどを役者たちにフィードバック。陸上競技経験者でもある和田が当時の想いを明かしたり、役者陣からの積極的な意見交換も行われ、稽古に先駆けて本作への士気を高めていた。オーディションサイト『Deview/デビュー』では、レクチャーショップ後の谷、宮崎、木村、和田への4人に、本作への意気込みを語ってもらった。
【舞台『光より前に〜夜明けの走者たち〜』作・演出:谷賢一×宮崎秋人×木村了×和田正人インタビュー】
◆「物語として悲しいものや美しいもの、たくさんのメッセージが詰まっている」
――まずはレクチャーワークショップで、谷さんから様々なお話を聞かれたと思いますが、その感想を教えてください。
【宮崎秋人】「僕たちキャストは実際に合宿を見学することができなかったので、谷さんの目を通してランナーたちの姿を想像したりもできましたし、すごく参考になりました。僕もいろいろと調べてはいますが、今日、お話を聞いたことで、稽古に入る前に自分で取り入れるべき方向性が見つかったなと思いました」
【木村了】「合宿には参加できなかったので、実際に練習を見学することはできませんでしたが、青山学院大学陸上部の方々やランナーのつらさみたいなものを、谷さんから聞くことができましたし、今日、みなさんとお話しして、和田くんもやっぱり本物のランナーだった方なので、とてもいい布陣だなと思いました。僕は競技者ではなかったし、精神状態とか、知りえない部分は和田さんに聞けるなと。僕もけっこう調べるほうなので、この先の稽古で谷さんやみなさんとセッションできるんじゃないかなと思いましたし、先がすごく楽しみになるワークショップでした」
――和田さんは、過去に実際にランナーでもあったわけですが。
【和田正人】「学生時代と社会人と合わせて12年ほど陸上と向き合ってきた時間が、こういう形で活かされる時がくるというのは、非常に意味のあることだったんだろうなって思います。谷さんが本作に関わる文献を読んだり、実際に現場に足を運んだりして、『長距離というスポーツはこんなに過酷なものなんだ』とおっしゃればおっしゃるほど、僕はそれが当たり前だと思っていたので、そのギャップがどんどん生まれてくる感じがしました」
――なるほど。競技者ならではの感覚ですよね。
【和田正人】「谷さんが感じたようなことが世間一般の感覚で、僕たち競技者との感覚とこれだけ差があるんだと気づいたし、非常に面白いなと。それを知るということは、これからこの作品に向き合う作業の中でも必要な要素なのかなとも思いました。谷さんが合宿行った後くらいに、連絡をしたら『みなさん、まるで修行僧のようでした。見ていて嗚咽が出そうでした』という話を聞いて。そういうことが僕自身、すごく新鮮で。そこのギャップをしっかりと自分の中で噛み砕いて、芝居に活かしていけたらいいなと思いました」
――谷さんが今回、この題材を選ばれた理由というのは?
【谷賢一】「円谷幸吉と君原健二という二人の男の人生がこんなにもドラマチックなのに、なぜこれまでドラマ化されてこなかったんだろうというのがとても不思議で。たくさんのメッセージが詰まっていると思うんです。”なぜ、そこまでして走るのか?“というところにも興味がありますし、”なぜ、片方のランナーは栄光を掴むことができて、なぜ一方のランナーは死を選ぶことになってしまったのか?”、そして、”なぜ、君原健二は一度失意の底に叩き落されたところから復活できたのか“、”なぜ円谷のあの有名な遺書の言葉が出てきたのか“など、興味があることだらけなんです。“なぜ走るのか?”ということや、“走っている選手をどういう風にマネジメントしたり、導いたり、ケアしたりすべきなのか”ということとか、現代の我々にとっても教訓になるようなこともあるだろうし、単純に、物語として悲しいものや美しいものがたくさん詰まっているなと。とても有名なのに、ドラマとしては埋もれてしまっている人たちにスポットライトを当てたいと思ったのが理由だと思います」
◆「極力、ランナーの精神状態になれるよう、体づくりをやらないといけないなと」
――実在した方を演じられるわけですが、役作りや演じる人物に対しての印象はいかがですか?
【宮崎秋人】「実在した人物で、しかも時代劇とか遠い過去の話ではなく、ここ何十年という次元で演じさせていただくのは初めてのことで。木村くん演じる君原健二さんはまだご存命ですし、円谷幸吉さんを知っている方がまだ生きていらっしゃる中で、その人物を演じるというということで、今はまだ模索中です。ただ、この前、和田さんに役作りに関して相談したんですが、その時に『とりあえず、(円谷氏の地元)須賀川に行ってみたら?』というアドバイスをいただいて。まずは、円谷さんがどういう土地のどういう空気を吸って、子供時代や学生時代にどういう道を走っていたのか、ということだったり、円谷幸吉メモリアルホールに行ったりして、生のものを見て感じて来ようとは思っています。それと、舞台上で実際に走る走らないに限らず、極力、ランナーの精神状態になれるよう、走ったり、体づくりをやらないといけないなと、現段階では感じています」
【木村了】「君原健二さんは、ご存命で、今もなお走り続けていらっしゃる方ですし、マラソン選手にとって偉大な方だと思います。今は君原さんが出された本とかを資料として読みつつ、どんな方なのかを頭で思い描きながら、君原さんとの共通項を探してる最中です。ただ、谷さんのお話を聞いていて、ランナーと役者って似ている部分もあるのかなと」
――どんな部分でそう感じたんですか?
【木村了】「役者の仕事も孤独と言えば、孤独なんですよね。役作りするのも、演じるのも、評価を受けるのも自分一人。もちろん、作品づくりはみんなでやるけど、やらなきゃいけない作業は、孤独だったりもする。ランナーも走っている最中は誰にも頼れない。途中でくじけそうになったりもすると思うんですが、それは役者の仕事も同じで、何度も折れそうになったことはあって。でも、それでもやらなきゃいけない、走り抜けないといけないという部分は共通しているのかなと。そこと自分を重ねながら、いろんな方法で役と自分を擦り合わせているような状況です」
――今回、青学の原監督が特別監修に決まったのには、和田さんが関係していらっしゃるとか?
【和田正人】「去年、『陸王』というドラマでお会いして、そこから親しくさせていただいていて。僕自身が今の陸上界のこととかとても興味があって、いろいろとお話を聞いたり、プライベートで飲みに行かせていただいたりしていたので、舞台制作陣に紹介させて頂きました。僕もまた原さんと一緒にお仕事がしたいという気持ちも強かったですし、原さんにお話をしたら、『お力になれるのであれば、ぜひ』と、快く承諾してくださって、とても嬉しかったです」
――とても心強い特別監修ですよね。
【和田正人】「原さんは意識が外に向いているというか、先を見ている方で、本気で今の陸上業界のことを心配していて、もっとこうするべきだということを、どんどん発信されていて。陸上業界も変わろうとしている中で、とても大きな影響を与えている方だなと。そんな原さんがこの作品に関わることで、演劇という立場から陸上業界を盛り上げていくということにも繋がったら嬉しいなと思っています。だからこそ、原さんに参加していただけるのは本当に心強い。できたら、アフタートークとかもやれたら楽しそうですよね。……でも、この時期って、箱根駅伝前で、全日本大学駅伝とかもあって、すごく大変な時期なんですよ。これで、次の箱根駅伝とか何か影響があったりしたら、責任を感じますし、僕らもそういう意味では本気でかかっていかないといけないなという緊張感もあったりします」
◆「演劇で人生を救われた人間なので、救ってもらった分だけ恩返しがしたい」
――さきほど、谷さんから”何のために走るのか“という言葉がありました。ちなみに、みなさんは何のために今の仕事をやられているのでしょうか?
【谷賢一】「僕は世の中をもっと良くしたいと思ってやっています! この世の中にはまだまだ不幸と貧困や戦争などがいっぱいあるし、ありとあらゆる悲しみを追放していきたい。人間はもっと豊かに結びついたり、友情を育んだり、愛を共有できるハズだと思うんです。でも、その割りにはみんな苦しそうに生きている。演劇というものを通して、まだまだ伝えられる感動とか教訓って多いと感じていて。僕自身、演劇で人生を救われた人間なので、演劇に多大に救ってもらった分だけ恩返しがしたいなと。今回のような人生や生きることに対して率直に向き合える題材と出会えたことは本当にめぐり合わせだと思うので、こういう作品を素晴らしいキャストと一緒に、円谷さんをはじめ、実在した人たちの魂も背負いながら、きちんとお客さんに伝えることができたら、きっと世の中ちょっとは良くなるんじゃないかなと思うし、苦しく生きている人が、生き方について、新しい知見を得ることができるんじゃないかなと。そういうことのために、僕は演劇をやっています」
――キャストのみなさまはいかがでしょう?
【宮崎秋人】「僕がまだ養成所に通っていた頃、初めて関わった舞台の稽古中に、東日本大震災が起こって。公演をやるべきかどうかという話も出たんですが、公演をやることになって、幕を開けたら満席だったんです。その時に初めて拍手を浴びたんですが、演劇というものはこういう状態の中でもこんなにも求められているものなんだと実感して。だからこそ、演劇をやりたいと思いましたし、これからもやっていこうと思いました」
【木村了】「僕は14歳くらいからこの仕事を始めたんですが、もともと芸能人になろうとか、芝居をしようなんて思ってなくて、なんとなく始めたというのが最初にあって。でも、君原さんも一緒だったと思うんです。本を読むと、君原さんも特にマラソンをやりたかったわけではなくて、得意であったというところから始まっていて。ただ、この仕事をやっている中で面白いなと思っているのは、やってもやっても埋まっていかないというか、一つの役が終わっても、また次の役がやってくるし、その役のことを探求していくと、どんどん掘り下げられるし、知らないことが多すぎる。人を演じるって、その人の人生を生きるということだから、とにかく時間が足りないんです。それをどんどん追及していったら、今ここに自分がいるという状態。僕は自分が知らないことを知ることっていうのがすごく好きなので、それが自分の原動力でもあるんです。つらいこともありますけど、感動してくれたり、賛否両論いろんな意見があることも面白いし、僕はすごく楽しんでこの仕事をやらせていただいています」
【和田正人】「僕は谷さんと似ているところがありますが、こんな僕がこういう仕事で世の中を豊かにすることに貢献できるということを実感できる。僕の一つの生き方の中では夢の実現というのがあって、まだまだ全然手が届いてないものもあれば、手前にある小さな目標に手が届いたとか、そういう風に必死に生きていて。それが魅力でもあって、とことん突き詰めてやろうって思うし、生きている実感もする。僕自身、陸上を辞めて、第二の人生と思ってこの仕事をやっていますが、最初は、もっと自分を表現したい、もっと自分が活躍できる場所がほしいって思っていたけど、それだけではどうしても続けられない。そこからこの仕事と向き合っていく中でそんなことを考えるようになりました」
◆「今回、コーチ役はご飯に連れて行かなきゃいけない感じ?(笑)」
――ライバル役を演じる宮崎さんと木村さん。お互いに対しての印象は?
【宮崎秋人】「今日初めてお会いしたんですが、僕は一方的にずっと見ていた方でしたし、木村了さんとの共演だ!って嬉しかったです。そんな木村さんとライバル役を演じるということで、しっかりと対になれる人間にならないといけないなと。ちゃんと同じ土俵に立っている円谷幸吉としていられるようにしなきゃいけなし、そうならないといけないなと思っています。なので、稽古場では盗めるところはところん盗んで真似できるところは真似していきたいなと」
【木村了】「今回、初めてお会いしたんですが、共通の知人がけっこういて。知人にどんな方なのかを聞いたら、『すごく真面目でまっすぐでいい子だよ』と返ってきて、良かったなって思いましたし、実際にお会いしてみたら、本当にこの雰囲気のままというか、ふんわりとしていてトゲがない。実際の君原さんと円谷さんがどんな関係性だったかというのは、本を読む限りでしかわからないけど、それをセッションしながら作り上げていけるような方じゃないかなと思っています」
――円谷さんと畠野コーチ、君原さんと高橋コーチと、それぞれ選手とコーチの関係性もポイントになってくる本作。宮崎さんは和田さんと、木村さんは高橋光臣さんとともに、選手とコーチを演じられるわけですが、そこの関係性はどのようにして作っていこうと思っていますか?
【宮崎秋人】「僕からしたら、和田さんは走るということに関してもそうですし、芝居に関しても先輩なので、本当にコーチみたいな存在で。なので、教われる部分はとことん教わりたいなと思っていますし、でも、一方的にではなくて、“こいつのためにもっと何かやりたい”と思ってもらえるように、まず自分からやるべきことをやっていきたいなと。あとは、ご飯に連れてってもらえたら、僕はもう満足です!(笑)」
【和田正人】「ご飯は……連れていきたいと思います(笑)。僕は宮崎秋人という人間の胸の中に、まだまだ使いきれていないエネルギーとか、葛藤とかいろんなものがある感じがすごくしていて。それをぶつける場所としては、今回うってつけだし、とことん迷って、苦しんでほしいなと。そこに僕がどういう風に寄り添えるのかっていうのは、まだ想像つかない部分ではありますが、彼がそこに向けてきた力に対して、それと同じくらいか、超えるくらいの力で向き合ってぶつかっていけたら、何かいいものが生まれるのかなと。どちらがというわけではなく、一緒に伴走していかないといけないのかなと思うので、稽古場に入ってからの一発目の向き合い方が大事になってくるのかなと思っています」
【木村了】「高橋光臣くんとは、10何年ぶりかの共演になるんですが、当時の僕は17、18歳くらいで、すごく生意気だったので、年上の光臣くんはきっとイラっとする事もあったんじゃないかな(笑)。でも、それって実際の君原さんと高橋コーチの関係性に似ているのかなとも思っていて。だから、稽古場でも甘えるところは甘えて、反発するところは反発してみようかなって思っています。優しいので、きっとなんでも受け入れてくれると思うんですけど、こっちから揺さぶってみようかなと。あとは、僕ももちろん、ご飯に連れて行ってもらうつもりです(笑)」
【和田正人】「今回、コーチ役はご飯に連れて行かなきゃいけない感じ?(笑)」
――渡辺ミキ総合プロデューサーの話によれば、高橋さんが『天才・木村了との再会はすごく楽しみだ』と言っていたそうですが。
【木村了】「いやいや、そんな!(笑)。演出家の谷さんの前で、それはちょっと止めてほしいな……(笑)」
◆「2020年東京オリンピックを目前に控えている中で、この舞台をやるということに、一つ意味がある」
――では最後に、本作への意気込みをお願いします。
【宮崎秋人】「いろんな文献があったりしますが、それらはあくまでも周りからみた円谷幸吉だと思うので、自分がきちんと円谷幸吉になるためには、周りからみた状態だけではなくて、今回の作品の台本を通して見えるものを大事にしていきたいなと思っています。円谷さんに関する文献とかはあくまでも参考の一つとして捉えて、台本を通して自分の中から生まれてくるものをしっかりとお届けできるように、形にできたらなと思っているので、頑張ります!」
【木村了】「2020年には東京オリンピックがあって、それを目前に控えている中でこの舞台をやるということに、一つ意味があるとも思っています。今の若者たちは、円谷幸吉という人がいたんだということをほとんど知らないと思うし、君原健二さんはご存命で未だに走られていて、その道をずっと探求し続けている。そういう人たちのこと、演劇という形で観に来てくださる若い方にも伝える伝承者になれればいいなと思います。また、この作品をやることで、マラソンへの関心をもっと広めていけたらいいなと思いますし、その助けになれたらなと。全力でやらせていただけたらと思います」
【和田正人】「ランナーとして生きてきた意味、そして今、俳優として生きている意味、そういったものを一つにまとめて、自分の中で何か大きな意味を見つけられる作品になりそうだなと。なので、今回の作品に限っては、自分という存在や生き様を素直にぶつけてみたいという好奇心がすごくありますし、とてもワクワクしています」
――やはり、普通に役者として関わる作品とは違う、特別な感情がありますか?
【和田正人】「そうですね。題材に対しての想いが強いのかもしれません。僕自身、現役を引退し、今は俳優として外に出た立場として、陸上競技というものを別の角度から向き合うというか、そういう立場でこういった作品と出会うというのは、とても意味があることだと思っていて。『光より前に』というタイトルにしても、今の日本人って、どうしても2020年に向けて……という意識が強いですが、2020年以降も続くし、むしろそっちのほうが大事だったりする。僕たちの演劇もそうですが、陸上をはじめとするスポーツや様々な文化がもっと先に進んでいくために、何か大切なものが描けられそうな予感がしていますし、大きな足跡を残す作品になりそうだなとも思っています」
【谷賢一】「円谷幸吉の人生は悲劇だと思います。ただ、その悲劇を上回る希望や光みたいなものが、彼の周りの物語には付着していると思っていて。円谷幸吉の悲劇を補填する形で君原健二という男はどういう風に生きて走ったのか……。この二人の人生を並べてみることで見えてくるものが本当に増えてくる。僕自身も決してプロのランナーではなく、この作品の執筆のために走っているくらいなので、ランナーの気持ちを100%書けるわけじゃないと思います。たぶん、ランナーの人生を借りて、自分が知っている、生きるということ、戦うということ、走るということ、孤独ということなどを書くと思う。50年近く前の物語ではあるけど、それが現代に生きるお客様と何かの形でうまく出会うことができればいいなと思っています」
舞台『光より前に〜夜明けの走者たち〜』は、11月14日(水)〜25日(日)まで紀伊國屋ホールにて(11月14日はプレビュー公演)、11月29日(木)〜12月2日(日)までABCホールにて上演。