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2017/07/12 19:38
主演・柳下大×演出・森新太郎が挑む『怪談 牡丹燈籠』まもなく開幕「冷え冷えとするような恐ろしい舞台」
「四谷怪談」「番町皿屋敷」と並び、“日本三大怪談”と称される「牡丹燈籠」。歌舞伎から小劇場に至るまで、繰り返し上演されている人気演目を、『エドワード二世』で読売演劇大賞を受賞した森新太郎が演出し、7月14日(金)よりすみだパークスタジオ倉にて上演。人間と幽霊の悲恋をめぐる怪談話の恐怖の中に、人間のおぞましさや哀しさなど、濃厚な人間ドラマが描かれる本作で、座長を務める柳下大と森に、本番直前の想いを語ってもらった。
【『怪談 牡丹燈籠』柳下大×森新太郎 インタビュー】
◆「人間の怖さや面白さ、いろんなものを一気に感じられる舞台だと思う」
――いよいよ14日より幕が開きますが、稽古での手ごたえはいかがですか?
【森 新太郎】「普通は、本番1週間前というのは、芝居を固めていく時期なんですが、やっと昨日になって本物の舞台美術が届いた関係で、半分くらい芝居を変更しました。俺は楽しいけど、役者が楽しいかどうかはわからない(笑)。でも、楽しいと信じてやっています」
【柳下 大】「仮のものでもいろいろと試すことはできたんですが、実際の舞台美術が来ると、やっぱりイメージがまったく違ったり、できることが増えたりして。森さんの中でいろんな可能性が増えて、森さんが頭の中でイメージしているものを表現することに必死でついていくという感じで、昨日はぐったりしました(笑)。でも、僕はそういうのが好きなので、楽しいです」
――本物の舞台美術が入ったことで、いろいろと可能性が広がったと。
【柳下 大】「僕のところでいえば、前半部分は今までと全部変わりました。でも、固定された中で役を突き詰めていくよりも、森さんみたいに、いろいろ試してくださるほうが、いろんな可能性の中で試行錯誤していきながら、肉付けできていく感じがして、僕は楽しいです」
【森 新太郎】「いろいろと試行錯誤して、9割9分は捨てるんですけど、無駄なことは何一つないと思っています」
――お互い、今作で初顔合わせということですが、それぞれお互いの印象などもお伺いできますか?
【柳下 大】「森さんの演出を受けている方から、よく話題に出ていて。『森さんとは1回やったほうがいいけど、大変だよ』みたいな感じで、とにかく稽古が長くて大変ということを聞いていました。でも、僕はそういうの、嫌いだけど嫌いじゃないんです(笑)。稽古中はきついけど、本番になったときや終わったあとに、“アレ、やって良かった”って思えるし、達成感を味わえるので。でも、実際稽古に入ってみたら、ツライとか稽古長いなという感じは全然しなかったです。何回もやっていくことで体も慣れてくるし、頭も余裕が生まれて、自分の中でも違ったものが見えてきたりするので、ぜんぜんキツイ感じはしないです」
――森さんから見て、柳下さんはどのような俳優さんですか?
【森 新太郎】「一緒にやってみてわかったのは、本当に演劇が好きなんだなということ。昨日、けっこう変更になった部分があったんですが、なんか楽しそうにやっているんですよ。それ以外でも、ほかの人が芝居をしているときに、すごいやりたそうにして観ているんですよね。『あ、ごめんね。今は君の出番じゃないから、ちょっと待っていてね』って思っちゃうくらい(笑)。それぐらい舞台が好きなんだなと感じましたし、それがまず何しろ良かったなって思いました」
【柳下 大】「他の人の芝居を観ていても、自分でやっちゃうんですよ。しかもそれを共演者の方に見られていたみたいで、『大くん、あの役やりたいんでしょ? 口動かしてたもんね』って言われて(笑)。この芝居は演じていても楽しいし、観ていても楽しいです」
――「牡丹燈籠」はとても有名なタイトルですが、今回の台本を読んでどんな印象を抱きましたか?
【柳下 大】「僕はこの作品のことを知らなくて。何も知らずに読んだんですが、僕の中では孝助(飯島平左衛門草履取り)にすごく惹かれました。でも、他でやられている演目では、孝助が出てこなかったりすると聞きました。今回の『怪談 牡丹燈籠』では、世間で知られている新三郎とお露、伴蔵とお峰の話以外にも、孝助とかいろんなサイドストーリーが約2時間にキュっとまとめられていて。展開も速いし、あっという間に時間が流れていくんじゃないかなという感覚でした」
【森 新太郎】「フジノサツコが脚本を担当しているんですが、最初は『よう自由に書くな』と。すべての役者が“どうやるんじゃい!”と思ったらしいです(笑)。もともと(三遊亭)円朝の原作が、こういう風に入り組んだあらゆるエピソードが面白かったりするので、それらを削ってしまうと、因果話の魅力がなくなってしまう。ほぼ網羅しているので、原作の豊かさをそのままに出せるんじゃないかなと思います」
――台本を拝見して、こんなに壮大な話だったのかと思いました。
【森新太郎】「幽霊話も怖いんですけど、それよりも人間の因縁のほうが怖い。新三郎の話が中心にあるんだけど、次から次へと変わっていって、“この話、どこに行き着くんだろう?”というのが、最後までお客さんの興味になればいいなと思っています」
――柳下さんが演じるのは、浪人・萩原新三郎ですが、どんな風に役づくりを?
【柳下 大】「最初に森さんに、『市川雷蔵さんのイメージ』と言われたので、『斬る』『薄桜記』という映画を観て、自分の中で好青年というか、硬派で二枚目というのをイメージして本読みに向けて作ってきました。でも、やっていくうちに、森さんの演出もあって、それがガラっと変わったり、縛りがなくなったりして。核となる骨がどんどんできてきて、そこに肉付けしていくという感じで、1回こっちに振ってみてちょっと戻すとか、半分だけ戻そうとか、森さんの言葉をもらいながら、自分の中で1回整理して、また森さんに見てもらって……というのを繰り返しやっている感じです」
――どんな新三郎になりそうですか?
【柳下 大】「たぶん、ほかの『牡丹燈籠』でイメージしている新三郎とはちょっと違うんじゃないかなと。僕の感覚だと、ストーリーの中の一人というより、リアリティある人間で、現代にもいるようなイマドキの若い男の子みたいな感じかなと思っています」
――今作で森さんが柳下さんに期待する部分は?
【森 新太郎】「今言っていましたが、新しい新三郎像を作ってもらわないとなと思っていて。単純に、僕が市川雷蔵が好きなので、“新三郎を雷蔵みたいに作ったらどうなるかな?”という興味で彼に言ったんですが、稽古をやっていくうちに、好青年に作っていってもあまり面白くないなと思って。彼を見ているうちに、違うイメージも沸いてきて、少し嫌な部分があってもいいんじゃないかと思えたんです」
――少し嫌な部分があったほうが、よりリアルに感じられる気がします。
【森 新太郎】「もともとちょっとズルい男だなとは思っていたんです。だって、お露をたぶらかせて相思相愛になって、そこまで気にさせておいて、幽霊だってわかった、お札貼っちゃいますからね(笑)。新三郎は一介の浪人なんだけど、気位が高いところがあっても面白いんじゃないかと思って。それで、あるとき『D-BOYSとか周りの人に気位高いやついない? それをモデルにやってみてよ』って言ったら、すごく面白くて。でも、未だに、そのモデルが誰なのかはわからないんですけどね(笑)。こんなにも気が強いのに、それでいてちょっと繊細なところがある新三郎というのは想像していかなったので、それを得られたことは大きかったです」
――“怪談”と銘打った演目ということで、怖さを出していくというところで気にされたことは?
【森 新太郎】「“怖いだろ!?”という演技をさせちゃいけないなと思っていて。お露の演技一つとっても、怖いというより、その想いが異常なだけで、怖がらせようとする芝居をしたら失敗するなという気がしています。それよりも、怯える人間の芝居のほうが重要だと思うし、受身の人間がどこまで面白くできるかだと思っています。お露の芝居ももちろん大事ですが、幽霊だとわかった瞬間、拒絶する新三郎の芝居のほうが大事なんじゃないかなと。あんなにも受け入れていたものをこんなにも拒絶できるんだとか、もしかしたらそれが本質的な怖さなんじゃないかなと。怖がる側に、なぜ怖いと思ったのか?理由がほしいなという気はしていますね」
――柳下さんは、怪談もの初挑戦ですよね?
【柳下 大】「初めてです。お化けは嫌いなんですよね。怖がりなので幽霊というものを信じていない。でも、信じていないという部分に関しては、新三郎と似ているなと思っています。信じていないからこそ、目で見た実態があるものを信じている。目の前で起こっていることを今の間隔でやっているよう感じなので、お露が幽霊ってわかった瞬間の場面では、今の自分が、もし幽霊と会話しているって思ったらどんな感じになるのかなっていうのを考えながら、180度一気に変わるみたいなことを意識してやっています」
――江戸の言葉で芝居をするのは大変じゃないですか?
【柳下 大】「僕は時代劇が好きなので、こういう口調とかはすごく好きなんです。でも、しゃべれてなかったので、森さんに言われて今まで手を付けていなかった外郎売を始めました。今までやってなかったからこそ、知れば知るほど面白いし、言葉遣いや言い回しとか、絶対やったほうが良いものだったんだなって、今回気づかされました」
――今回、劇場がすみだパークスタジオ倉という部分でも興味をそそられます。どんな怪談が繰り広げられるんだろうかと。
【森 新太郎】「今回は暗闇にこだわりたかったんです。暗闇ってそれだけで怖くなれるし、想像力が広がる。大きい劇場だとそれがなかなかできないんですが、今回は極限までできるなと思っています。ある程度暗くてもそこに人がいるというのは、皮膚で伝わってくる。こういう空間じゃなかったら、『怪談 牡丹燈籠』はやれなかったかもという気はしています」
――では、最後に舞台のみどころアピールをお願いします。
【森 新太郎】「チラシにも『冷え冷えとするような恐ろしい舞台』って書いたから、そうするしかないんですが(笑)、そのつもりでやっていますし、そういう夏の過ごし方もたまにはいいんじゃないかなと思います。ただ、幽霊話だけだと思われると、お客さんはびっくりしちゃうかも。よく言われることですけど、本当に怖いのは人間なので、そういうものをぜひ観ていただければと思います」
【柳下 大】「キャラクターが個性豊かで、いろんなサイドストーリーも入り交じっています。怖さも感じると思うし、人間の面白さも感じると思うし、いろいろなものを一度に一気に観られる舞台だと思います。感覚で伝わるものがいっぱいあると思うので、ご自身がどう感じるかというのを楽しんでもらいたいです」
オフィスコットーネプロデュース『怪談 牡丹燈籠』は、7月14日(金)〜30日(日)まで、すみだパークスタジオ倉にて上演。