2014年12月4日
六本木にあるオリコンに勤めていた頃、地下鉄日比谷線のホームに、高層タワーマンションの入居者募集のボード広告が出ていたことがあった。広々とした部屋と一面の窓から見える六本木の夜景の写真。
こんな夜景を眺めながら眠りにつく生活って…。終電間際にヘトヘトで帰るたび、その広告写真を呆然と眺めた。値段は書いてなかったが、一介のサラリーマンの手の届く物件でないことは明らか。でも、世の中にはそんな高層マンションに住み、夜景を自分のものにした成功者たちもいるのだろう。
ドラマ『Nのために』の主人公・杉下希美は大学時代、ビル清掃のアルバイトをしながら、そんな高い場所へ憧れを抱いていた。故郷の瀬戸内海の島では、他の島に遮られて見られなかった端から端までの水平線を見るために。そして、悲惨だった島での生活から遥か上の世界へ昇って行きたくて。
彼女は島で随一の裕福な家庭で育ったが、高2の秋に突然、母親と弟と共に家を追い出された。父親が愛人と暮らすと宣言して。代わりに当てがわれたのは、山の中の古く狭い小屋。精神を病む寸前の母親に振り回されながら、憎むべき愛人に土下座して食料を恵んでもらい、何とか生きてきた日々。そこから抜け出すために、東京に出てきたのだった。
だが、大学卒業を前に、高層マンション最上階の一室でセレブ夫婦が殺された現場に、彼女はいた。同じボロアパートに住む大学生や、島の高校の同級生らと共に。いったい彼らに何が起きたのか? 終盤に入る秋ドラマの中で、回を重ねるごとに引き込まれたのが、この『Nのために』だった。登場人物たちがみんなトラウマや悲しみを抱えていて、切なくなる。それだけでなく…。(続く)
戻る