青春SFドラマに描かれたかけがえのないもの(5/6) | Deview-デビュー
2014年5月26日

 広一には妹がいたが、8年前に幼いまま亡くなった。その妹が成長した姿で現れる夢を見る。学校では典夫に続き、彼のいとこというアスカ(杉咲花)が転校してきた。彼女は広一の夢の中の妹にそっくりで。

 みどりが典夫に惹かれるのに心穏やかでない広一だが、彼自身もアスカに惹かれていく。妹に恋するような禁忌もはらみつつ。実はアスカは異次元のD8世界の王族の姫。戦争に明け暮れていたD8では行けなかった“学校”というものを経験させてあげたいと、典夫が取り計らった。

 終盤の10話。広一、みどり、典夫にアスカ、アスカの祖母(D8の王妃)で、公園にピクニックに行くシーンがあった。晴れた空の下、サンドイッチを広げて。広一と典夫はキャッチボールをする。アスカは生まれて初めてのシャボン玉に歓喜。呼吸をしないロボットの典夫はシャボン玉はできないが。

 そんな光景が光きらめく美しい映像となっていた。広一やみどりには当たり前にあるこの世界(D12)が、放射能で滅びたD8から来たアスカや王妃には、どれほどかけがえのないものに見えたか。

 冒頭の典夫の「なんて美しいんだ、この世界は」に始まり、D8から来た人間はみな驚いていた。青空、花、放射能を含まない雨…。「D12の者たちは毎日こんな美しいものを見て暮らしていたのか」と。

 青春とは、渦中にいると気づかぬまま過ぎる美しい季節。『なぞの転校生』は広一やみどりのそんな季節を描き、青春ドラマの味わいを出していたが、失ってから気づくものは青春だけではなかった。D8の人間の視点から、この何でもなく見える世界の美しさにも気づかせてくれた。  そして、最終回も涙ものだった。
(続く)


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