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2022/03/31 18:01
映画『女子高生に殺されたい』で異彩を放つ新進俳優・河合優実「あおい役のキャラクターが強くて、笑い方が分からなくなりました」
『ライチ☆光クラブ』『帝一の國』などで知られる鬼才・古屋兎丸の画業20周年記念作品として発表された同名コミックの映画化作品『女子高生に殺されたい』が、4月1日(金)より全国公開となる。女子高生に殺されたいがために高校教師になった男・東山春人の9年間に及ぶ“自分”殺害計画を描く衝撃作において、春人が担任を受け持つクラスの生徒として、物語のキーとなる女子高生・小杉あおいを演じるのが、日本映画界が注目する新進気鋭の俳優・河合優実だ。旬な若手俳優がぶつかり合う本作で、独特の存在感を見せる河合に話を聞いた。
■映画『女子高生に殺されたい』小杉あおい役・河合優実インタビュー
――まず本作の脚本を読んだ時に、作品に対して、そしてあおいという役についてどう感じましたか?
「最初に原作のほうを読んで、そこからオーディション用に抜粋した脚本に触れて、そのあとに全体の脚本をいただいたんですが、監督で脚本も手掛ける城定(秀夫)さんは、原作を2時間の映画にするにあたって、大幅に変えていて、その変換がお見事だなと思いました。これまでがっつりと原作がある役を演じることがなかったので、城定さんから“寄せてください”という指示は無かったんですが、大分原作を参考にして、再現する感覚も持ちながら演じました」
――あおいを演じる上でこだわった部分は?
「表面的なところで言えば、あおいが映っている漫画のコマを見て、表情や目線の感じを参考にしていました。背格好も自分に似ているなと思ったので、彼女の独特な姿勢を真似てみたり」
――原作の実写化作品には挑戦してみたかった?
「日本では漫画の世界に凄い才能が集まっていることは間違いないので、当たり前のことを言いますが、映画化するならそれをちゃんと映画ならではのやり方で面白くできたら、すごくワクワクするものがまだまだ沢山できると思います。みんなわかっていても難しいんだとは思いますが、とにかく私は実写化自体初めてだったので、初めてのことにチャレンジする作業は楽しいものでした」
――今回あおい役にキャスティングされた経緯は?
「あおい役としてオーディションを受けました。先に『愛なのに』への出演が決まっていて、撮影を待っているときに、また城定さんのオーディションがありますって言われて。あまりに連続で、もし私が城定さんだったら“もう河合は使わないけど”ってなると思ったんですけど(笑)。でも原作を読んで、あおいという役が面白かったし、自分がやっているビジョンも見えたので、とりあえずオーディションを楽しもうという気持ちで、お芝居をしに行きました」
――城定監督とは映画『愛なのに』に続き2度目のタッグになりますが、城定組はどんな現場ですか?
「『愛なのに』で城定組を一回経験してからご一緒したので、なんとなく感触が分かっていて良かったなと思いました。監督がご自分でも仰っていたんですが、“この役ってこういう人だよね”みたいな話を俳優さんとしないタイプみたいで。でも俳優との距離感が上手いと思います。例えば違う所を直すときに、ズバッと的確に言うんですけど、そのためにわざわざ関係性を築く時間を使わなくても成立する距離の取り方とご本人の人柄というか。場数が凄いので、無駄なことが一切無くて、とにかく撮るスピードが速く、みんなが楽しく気持ちよく現場を終えていく…。その百戦錬磨の感じは城定さんならではだと思います」
――本作は同世代のキャストが多いと思うんですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?
「役が役なので、学校メンバーとは実はあまり話していないです。あおいのキャラクターがすごくしっかりあるから、オンオフを切り替えられるかなと思ったんですけど、思ったより控室でもあおいを切らさない方がやりやすいみたいなモードに入ってしまって。あまり笑わないキャラクターで、笑顔が全編通しておそらく1つしかないので、笑い方が分からなくなった記憶があります(笑)。たまに(南)沙良ちゃんと笑わせ合ったりはしてましたけど」
――あおいは南さんの演じる真帆と強く通じ合っている役柄ですが、現場での南さんとの関係性は?
「彼女も私もすごい人見知りなので、絆を強くするようなことはあまりしていなくて。沙良ちゃんってすごく不思議で、ひょうひょうとして何を考えているか分からないけど、急にニコニコしてたり、眠そうなときもあれば、めっちゃ楽しそうなときがあるし、でもお芝居をするときは真剣だしみたいな、すごく面白いコです。沙良ちゃんのマネージャーさんはカエルが苦手なんですけど、沙良ちゃんが素手でカエルを捕まえて来て、マネージャーさんにめちゃくちゃ意地悪してました。夜のロケでみんな疲れ切ってる時なのに、全力ダッシュで追いかけっこしていたり。あと笑いのツボが浅いです。お芝居中のアドリブでちょこっと変なことを言うと、すぐ笑っちゃうみたいな。楽しかったです」
――お二人とも人見知りというのは、演技の上ではいかがでしたか?
「むしろ良かったと思います。あおいと真帆がもうちょっと女の子女の子したバディものみたいな感じだったら、関係性を築くことも必要かも知れませんが、言葉にせずとも分かり合っているような二人なので、演じていてもなんか心地よかったですね」
――東山春人役の田中圭さんの印象は?
「主演をされることもたくさんあって、ご本人がすごく忙しい時期だったと思うんですけど、余裕を感じました。まったく悩んだり立ち止まったりするところを見ていないですし、現場でずっとみんなを笑わせてくれるような方でした。雪生くん(細田佳央太)との二人のシーンの撮影を見ていて特に感じましたが、若い役者にちゃんとお芝居で刺激を与えるということを、半ば意識的にやってくれていたと思います。女子高生たちと絡むシーンでも、それぞれとちゃんと向き合うことで、女の子たちのキャラが立つという感じがしました」
――本作は人の心の奥底の願望がひとつのテーマですが、河合さんが心に抱いてやまない願望はありますか?
「この作品の取材ですごく“願望”について聞かれるんですが…。今なかなか旅行とかができないというのもありますし、想像もしなかったような、全部が未知の世界みたいなところに行きたいです。予想外のことばかり起きる場所に行きたいってたまに思います(笑)。今、日常がコロナで平坦だからか、余計にそう思います」
――女優デビューから3年目、近年公開され話題の『サマーフィルムにのって』『愛なのに』、そして本作で、続けて様々なキャラクターの女子高生役を演じて来ましたが、女子高生を演じるということについて、どう考えていますか。
「役者を始めたのが女子高生が終わった時なので、ずっとその地続きにある自分という感じがしていたんですが、振り返る間もなく3年過ぎて、最近は写真を見ているとものすごく隔たりを感じるときもあります。18歳から21歳の3年間での変わるスピードが速すぎて、正直高校生の時の思い出せない感覚もたくさんあります。でも、まだ制服を着て撮ってもらったら女子高生に見えてしまうだろうから、役がいただけるうちは頑張ってみようかなって思います(笑)。体験していない年齢について想像するより、一回通ってきたところを思い出す方がまだ易しいですし、同じ高校生でもまったくタイプが違う役を演じさせてもらっているので楽しいです」
――今、日本映画は新しいクリエイターや俳優の活躍が顕著で、すごく面白い渦ができている気がします。
「誰でも作品を作りやすい時代になって、これからどんどん若い才能も出てくるだろうし、それこそ『サマーフィルムにのって』の世界じゃないですけど、高校生だって映画を撮れるし。映画館とテレビだけだったものが、媒体も多種多様になって、役者の仕事の絶対数も増えている気がして。目指す人も増えて需要もあって、自称すれば誰でも俳優になれちゃう状況もある中で、何をやっていくかを選ぶのが難しいということは感じます。その一方で可能性も広がっているので、新しい出会いが楽しみです」
――その中で話題作が立て続けに公開され、河合優実さんは、今映画界が注目する存在になっています。
「撮る時期はバラバラだったりしたものが、昨年から公開時期が重なって、いい形でいろいろな作品を観ていただけたことが良かったし、ありがたいなって思います。好きなことを仕事にしようと思って始めて、演じている自分が楽しいだけですごく満足していたんですけど、ちゃんと私のことをたくさんの人が観てるんだということに気付いて。自身の喜びだけじゃだめだと思っていますし、責任と言うと固いし簡単ですけど、ちゃんと届ける側にいるんだという自覚が、ちょっとずつ出てきました」
――これから河合さんのように俳優を目指したいという読者がこの記事を読んでいるのですが、ご自身の経験を踏まえて、エールをいただけますか?
「俳優という仕事は、出会う人もその時々で違うし、いろんなことを毎日毎日考えて、そうやって実り続ける人生自体をまた材料にものを作れて、そんなことでご飯を食べられるなんて、本当に面白すぎる仕事だなっていつも思います。一方で、演技や表現、また表に出るという活動自体が持つ性質と、今現在俳優を取り巻く環境やシステムが持っている性質、両方の、苦しい側面にも向き合いながら、体と心を健康に保ち続けていくということは難しいのも事実です。皆さんとものづくりの場で一緒に戦う日が来るまでにほんの少しでもよりよい場所にできるよう頑張っていくつもりなので、それまで、自分がどういうものにときめいているのか、自分が一体何に突き動かされているのか、大切に見つめることにたっぷり時間を割いてほしいです」
■河合優実プロフィール
2000年12月19日生まれ、東京都出身。2019年デビュー。2021年出演『サマーフィルムにのって』(松本壮史監督)、『由宇子の天秤』(春本雄二郎監督)での演技が高く評価され、第43回ヨコハマ映画祭<最優秀新人賞>、第35回高崎映画祭<最優秀新人俳優賞>、第95回キネマ旬報ベスト・テン<新人女優賞>、第64回ブルーリボン賞<新人賞>、2021年度全国映連賞<女優賞>を受賞。主な出演作に『喜劇 愛妻物語』(20/足立紳監督)、『佐々木、イン、マイマイン』(20/内山拓也監督)、ドラマ「さまよう刃」(21/WOWOW)、舞台「フリムンシスターズ」(20/松尾スズキ演出)などがある。2022年は『ちょっと思い出しただけ』(松居大悟監督)、『PLAN75』(早川千絵監督)、『ある男』(石川慶監督)、ドラマ「17才の帝国」(NHK)、舞台「ドライブイン カリフォルニア」(松尾スズキ演出)などに出演。城定秀夫監督とは『愛なのに』(22)に続いて2度目のタッグ。
映画『女子高生に殺されたい』
2022年4月1日(金)全国ロードショー
女子高生に殺されたいがために高校教師になった男・東山春人(田中圭)。人気教師として日常を送りながらも理想的な殺され方の実現のため、9年間も密かに綿密に、これしかない完璧な計画を練ってきた。彼の理想の条件は二つ「完全犯罪であること」「全力で殺されること」。明るく平和な学園内で、静かに着実に男の計画は進んでいく…。
【出演】田中圭 / 南沙良 河合優実 莉子 茅島みずき 細田佳央太 / 加藤菜津 久保乃々花 キンタカオ / 大島優子
(C)2022日活