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2020/10/16 18:01
異色の青春スプラッターロードムービー『ファンファーレが鳴り響く』ヒロイン・祷キララ「自分でも見たことのない表情が映っています」
『されど青春の端くれ』で2019年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリとシネガーアワード(批評家賞)の2冠を受賞した、森田和樹監督の待望の最新作『ファンファーレが鳴り響く』が、10月17日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開となる。吃音症のためにクラスメイトからいじめられている引っ込み思案の男子高校生・神戸明彦と、殺人欲求に取りつかれたクラスメイトの女子高生・七尾光莉の血みどろの逃避行を描いた異色の青春スプラッターロードムービー。同作のヒロイン・七尾光莉を演じた、注目の女優・祷キララに、この映画への想いを聞いた。
■祷キララインタビュー
「初めて人を殺すシーンでは思ってもみなかった感情がわいてきました」
――祷さんが演じた七尾光莉は、「他人の血を見たい欲求」に憑りつかれている女子高生。その役を演じる祷さんが映画のなかでとてもハマっていました。
「監督からは、途中から当て書きのような感じで、私をイメージしながら書いてくださったとお聞きしました。最初にプロットを読んだときは、過激な役なので、自分に理解できるのか、演じられるのか正直不安だったんです。でも脚本を読み込むと、監督は決して光莉を理解できない異常な人としてじゃなくて、あくまでも一人の人間として描こうとしているのを感じて、純粋にこの役とぶつかってみたいと思いました」
――光莉のような想いや衝動は、実は誰の中にも存在していて、普通の人は薄皮一枚の奥に、外に出ないように保っている気がします。
「光莉と自分の生き方は、ほんのわずかの差で開いていっただけなんだなと感じました。光莉は快楽殺人者のような、突拍子もない思考で殺人を犯しているのではなくて、過去の出来事をきっかけに、十数年考え感じてきたことのすべてで決断し選択していることが、殺人に繋がっていったんだと思うし、自分のなかの譲れないものや目指すものを選び取って行くプロセスは、自分にも通じる部分を感じました。光莉の行動はもちろんやってはいけない犯罪だけど、頭の中は意外と異常じゃないと思うようになりました」
――ご自身がコンプレックスだと言っていた低い声や、クールな風貌が、今回はビジュアル的にも光莉のイメージにピッタリでした。
「監督は、私が小学校6年生の時に主演した『Dressing Up』を観ていたそうなんです。そのキャラクターも、家庭環境に幸せを感じられずに心に闇を抱えている役で、とにかく突っ走っていく感じでした。私とは実際に会ったことがない監督の中に祷キララのイメージがあって、脚本を書く中でそれが活きたというのは、本当に嬉しいことだなと思いました」
――光莉を演じるうえで、特に心がけたことはありますか?
「光莉はやることが過激で、口調はサラッとしていながらけっこうパンチの効いたことを言っているので、パキッとわかりやすいキャラクター性があるんです。演じる私がそこに引っ張られて、キャラが先行して中身が無くなったら、物語を引っ張るただのスパイスになってしまう。でもこの役はそうじゃないんです。光莉の人間臭い部分を私が忘れたら、本当にこの映画が終わるんじゃないかっていうぐらいに考えていました」
――光莉は簡単に人を殺せるような、超人的な存在として描かれているわけでもないですし、母親との関係では違った表情を見せたりもします。
「明彦(笠松将)に、初めて自分のお父さんのことや、過去のことを話すシーンがあるんですが、そこで『バカな大人は死ねばいいと思う』って淡々と言い放ちそうなのに、合間合間に『と、思うんだけど、どう思う?』とか『神戸くんは?』みたいに尋ねるセリフが挟まれているんです。周りにどう思われてもいいっていうキャラクターのようでいて、人間臭いところがあるなと思って。脚本を読んだ時には全然予想していなかったんですが、私自身は映像で観たときに、意外に感じたポイントで面白いと思いました」
――本作は今まで演じたことがないようなシーンも多いので、自分で見たことがない表情もたくさんあったのではないですか?
「殺人のシーンは、“こういう表情をしよう”とか決めないで臨んだんですが、初めて人を殺すシーンでは、自分でも思ってもみなかった感情がわいてきました。誤解を恐れずに言えば“気持ちいい”みたいな感情で。それはずっと光莉が望んでいたことだったから、やっと殺せたという想いとか、表情や血を淡々と観察したりとか、恍惚とした感情とか…いろいろなものが浮かんできて。全然カットがかからなかったのもあって、映像を観て“こんな顔してたんだ!”って思いました。これまで演技してきたなかでも異例のことでした」
■「この映画が何かのきっかけになってくれたら嬉しい」
――ほかにも現場で記憶に残っているシーンはありますか?
「ポスターのビジュアルにもなっている光莉と明彦が取っ組み合うシーンですね。いつか終わりが来ると分かっていても、貫き通したかったことを拒否されて、光莉が初めて人に対して感情的になる場面なんですが、脚本を読んだ時から、ここで本気で明彦にぶつかることができれば、光莉の中の正義や信念の強さが出ると思っていました。このシーンでちゃんとぶつかるためには、そこまでの積み重ねがないといけないし、そのシーンの撮影前は“いよいよ来たか”というプレッシャーがありました」
――剥き出しの感情がぶつかる印象的なシーンになったと思います。
「監督もテストやリハーサルを重ねないようにして、本番で一気に感情を出す“生”の感じでやってほしいと言っていて。直前は段取りの確認だけで、笠松さんがどんなふうに来るかも分からないまま本番に挑みました。そのシーンでは本気でめちゃくちゃムカついて“なんで否定するんだよ!”みたいな気持ちでビンタをしたら、笠松さんもそれ以上に来てくれて。おかげで二人で熱を持って演じ切った感覚がありました。終わったあとはお互いヘトヘトになったんですが、すごく印象に残っています」
――映画ではほとんど光莉と明彦は一緒にいますが、役者としての笠松さんの印象はいかがでしたか?
「顔合わせで初めてお会いした時は、いいことも悪いこともストレートに言う方だなという印象でした。これまで現場ではそういう方とお会いしたことが無かったので、向こうのペースに飲まれちゃう、でも飲まれたら絶対にダメだ、気張っていかないとって、考えました。でも笠松さんの話を聞いていると、芝居や作品に対する気持ちがすごく強くて、だからこそ伝えたいことや伝えないといけないことに対して、すごく真っすぐな方なんだということが分かったんです」
――そんな信頼感があってこその二人が出す空気だったんですね。
「笠松さんは現場で程よい距離感を保ってくださって。仲良くなり過ぎもせず、ギスギスもせず、カメラの前に立つと違った空気で、私がやりやすい感じにしてくださいました。楽しいシーンはあまりなかったんですけど(笑)、ナチュラルにその場にいられた気がします。掛け合いのシーンは本当に楽しみで、笠松さんなら私がグイグイ行ったら絶対に応えてくれるだろう、行かないと失礼だなって思ったし。すごく信頼できる方だったので、お芝居を一緒にやれてよかったです」
――木下ほうかさんとのシーンも見どころだと思うんですが、ベテランとの共演はいかがでしたか?
「ほうかさんが演技プランを提案して下さるケースもたくさんありました。私とほうかさんが格闘しているところに笠松さんが入ってくる場面では、“普通にやって来るよりも、例えば椅子を飛び越えてくるとか、何か大きな障害物があったほうが芝居は面白くなるよ”ってアドバイスをくださって。実際にいろんなパターンを試してみると、やっぱりおっしゃる通りなんです。緊張はしたんですけど、一緒に芝居を作ることを楽しんでくださって、芝居に熱い方だなというのを感じました。ほうかさんとのシーンは一日だったんですが、あっという間に感じて、強烈に印象に残っています」
――最後になりますが、この映画を観て下さる方へのメッセージをお願いします。
「血が噴き出る“スプラッタームービー”という見方もあるんですが、激しさだけを売っている映画とは思っていないんです。出てくる人たちがそれぞれ自分の置かれた状況で葛藤していて、そんな人間と人間のぶつかり合いや、変化を描いている映画だと思っていて。何かに悩んでいたり、迷っていたり、自分の世界の中で苦しいと思っていることがある人にとって、この映画が何かのきっかけになってくれたら嬉しいなって思います。感じ方は人それぞれだと思うんですが、思ってもみなかった人にきっかけを与える作品だと思うので、あまり気負わず、気になったら映画館でやっているうちに観てもらいたいですね」
――ありがとうございました。ちなみにちょうど現在放送中の『Memories〜看護師たちの物語〜』(BS日テレ/YouTubeで配信中)では、この映画とは真逆(?)の看護師役を演じていますね?
「この映画で初めて私を知ってくださった方には、ぜひ観てもらいたいです。同時期に観ると丁度いいかもしれないです。“同じ人?”みたいな(笑)」
ヘアメイク:TOM
服(全て):soduk
靴:UNTISHOLD
アクセサリー:Fauvirame
■祷キララプロフィール
いのり・きらら●2000年3月30日生まれ、大阪府出身。
第8回シネアスト・オーガニゼーション大阪CO2新人賞、第14回TAMA NEW WAVEベスト女優賞、第7回田辺・弁慶映画祭映検女優賞、ミスiD2016選考委員個人賞(市川沙椰賞/東佳苗賞)などを受賞してきた注目の女優。2019年には主演映画『左様なら』(石橋夕帆監督)公開。2020年は「看護の日」制定30周年特別ドラマ『Memories〜看護師たちの物語〜』がBS日テレで放送(YouTubeで配信中)。その後、第33回東京国際映画祭特別招待作品『サマーフィルムにのって』(松本壮史監督)、映画『やまぶき』(山崎樹一郎監督、ヒロイン役)の公開が控える。
■「ファンファーレが鳴り響く」
10月17日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
新宿K’s cinemaでは、10月17日(土)に、14:40〜の回上映後及び16:45〜の回上映前に、笠松将、祷キララ、森田和樹監督らによる初日舞台挨拶が行われる。
■ものがたり
高校生の明彦(笠松将)は、鬱屈した日々を過ごしている。持病の吃音症が原因でクラスメイトからイジメられ、家族にその悩みを打ち明けられないどころか、厳格な父親(川瀬陽太)からは厳しく叱咤され、母親(黒沢あすか)からは憐れんで過度な心配をされ、脳内で空想の神を殺しなんとか自身を保っている状態だ。
そんなある日、明彦はクラスメイトの才色兼備な女子生徒・光莉(祷キララ)が野良猫を殺している現場に偶然居合わせてしまう。光莉は、生理の時に見た自分の血に興味を駆られ、他者の血を見たい欲求を持っていた。光莉は「イジメてくる奴らを殺したいと思わない?」と明彦に問いかける。その日から明彦の中で、何かが変わったのだった。
明彦は、自身が学校でイジメられていることをホームルーム中に訴える。そのせいで明彦はさらにイジメグループから追い回されることになり、街中逃げ回るが、ついに追いつめられる。しかしそこで、光莉がまた野良猫を殺していた。そしてそのナイフで、光莉はなんと明彦をイジメている同級生を殺してしまう…。二人はその現実から逃げるように都会へと向かう。その最中に出会う、汚い大人たちをさらに殺していき、二人の血塗られた逃亡劇は確実に悲劇に向かっていくのだった…。
■出演者
笠松将、祷キララ、黒沢あすか、川瀬陽太、日高七海、上西雄大、大西信満、木下ほうか、他
■スタッフ
監督・脚本:森田和樹
製作:塩月隆史、人見剛史、小林未生和、森田和樹
プロデューサー:小林良二、鈴木祐介、角田陸、塩月隆史
撮影:吉沢和晃 録音:西山秀明 助監督:森山茂雄 特殊造形:土肥良成
主題歌:「美しい人生」sachi.
制作・配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会