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2019/07/30 19:01
俳優・池田純矢「これまでにない音楽と演劇の出会い」、自身が脚本・演出を手がける演劇シリーズ第4弾『絶唱サロメ』への想い
俳優・池田純矢が自ら脚本・演出を手掛ける「エン*ゲキ」シリーズの第4弾公演、舞台『絶唱サロメ』(10月に東京・大阪にて上演)。オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」に着想を得て、主演に松岡充を迎え、古典×音楽×演劇という、ミュージカルでも音楽劇でもない、全く新しい“LIVE ENTERTAINMENT”を作り出す。“これまでにない音楽と演劇の融合”と語る、本作への想いや意気込み、サロメ役のオーディションについてなどを聞いた。
【エン*ゲキ #04『絶唱サロメ』/池田純矢インタビュー】
■「僕が作りたいものは、誰もが楽しめる王道のエンターテインメント」
――『サロメ』という戯曲については、以前から興味があったんですか?
【池田純矢】「『サロメ』に関しては、オスカー・ワイルドの原作の戯曲を読んだこともありましたし、オペラ作品として有名だったりすることももちろん知っていて。戯曲を読んだ当時は、残酷で妖艶な美しさもある感じがとても素敵だなと思ったし、魅力をとても感じていました。『サロメ』って、戯曲自体はとても短くて、単純にセリフだけ読むと30分くらいで終わってしまうような作品なんですよね。キャラクターのバックボーンや心情とか、あまり描かれていない作品なので、こちら側に想像させる部分がとても多い。
余白だらけであり、ある意味余白がないというか…。何がこんなにも人を惹き付けるのだろう、130年もの間愛され続けている理由ってなんだろうと。それらの全貌は理解しきれないなと思いながらも、とても素敵な物語だなと感じていました」
――そこから、どのような経緯で今回『サロメ』という作品を上演しようと思ったんですか?
【池田純矢】「今回の企画が生まれた経緯にはいろんなパーツがあったんですけど。その『サロメ』という作品が魅力的だと感じていたということとはまた別のベクトルで、音楽を使った演劇を作りたいなとずっと思っていて。たとえば、ミュージカルであれば心境を歌い上げて表現したり、音楽劇であれば音楽が物語を紡いでいくというようなことだと思うんですが、僕はそれをやりたいわけじゃないんだよなと。歌は歌として歌唱するとしてもライブシーンじゃないし、そういう“音楽”と“演劇”の新しい融合ってないのかなと考えていたんです。
そうやっていろんなことを考えていく中で、今回主演をお願いした松岡充さんとの出会いがあって。以前、共演させていただいたとき、もちろんSOPHIAのご活躍から拝見していましたし、僕が子どもの頃から活躍されている方であるにも関わらず、僕と対等に接してくださったんです。そういう人柄であったり、松岡さんってアーティストの中でも独特の分野の音楽をなさる方だなとも感じていたし、松岡さんの歌の力ってすごいなと。そんな魅力を感じていたときに、“この人と一緒に演劇を作れたら面白いだろうな”という考えがふと出てきて。その時に、“僕がやりたかった音楽と演劇の融合ってこういうことなんじゃないか!?”と自分の中で繋がったんです。そしたら、今度はいつかの記憶で読んでいた『サロメ』がブワッと出てきて」
――様々なパーツが一気に繋がった瞬間ですね。
【池田純矢】「『サロメ』の余白の部分って、もしかしたら音楽だったら表現できるんじゃないか。そっか、だからオペラとして愛され続けているのかな?……と思ったりして。そのときに、ミュージカルでも音楽劇でもない、でも言葉の美しさや音楽性であったりとかを、『サロメ』という題材がよりブラッシュアップしてくれるんじゃないかなと。そういういろいろなパーツがハマって、自分の中でストンと落ちて、“コレだ!!”と思ったら、書かずにはいられなくなって、一気に1ヵ月くらいで書き上げました。それが今回の物語が出来上がるきっかけです」
――企画を立てて台本を書き、劇場も押さえて、松岡さんにオファーされたそうですね。
【池田純矢】「なんで自分がこれをやりたいのか、なんで松岡さんじゃないとダメなのかっていうのは、形にしないとダメだなというか、それは自分に対しても誠意が足りないと思ったので、僕の最低限の礼儀として台本を書き上げて、それを先にお渡ししてからオファーしました。松岡さんには、『この話を断っていただいてもぜんぜん構わないんですが、もし松岡さんがお断りになるのであれば、この企画は一生上演することはないと思います。なぜなら、僕は松岡さんを思って書いた作品なので』というところはお伝えして。松岡さんの人柄だとは思いますが、松岡さんがそれを面白がってくださったからこそ、今回作品が生まれるきっかけがあったのかなと思います」
――音楽劇でもミュージカルでもない、まったく新しい“LIVE ENTERTAINMENT”ということで、どんな風な作品になるか、楽しみです。
【池田純矢】「これまでにない音楽と演劇の出会いなので、お客様にとっても新しい出会いになると思っていますし、そこが見どころの一つになるのかなと。僕が作りたいものは誰もが楽しめる王道のエンターテインメントなんですが、観ていて面白くて楽しい、観に来て良かったと、その時間が良い思い出になればいいなという思いがあって。誇りを持ってそういう娯楽を作っていきたい。高尚なものであることが誇りじゃないと思うし、くだらないものを作っているって思われてもいいし、なんだったらそのつもりで作っている部分があるというか、そこで価値のあるくだらないものを作るのがエンタメなんじゃないかなとも思っているので」
■「僕も昔は毎日のようにオーディションを受けては落ちてという日々を送っていた」
――いい大人がくだらないことに本気で向き合っている姿って魅力的ですよね。
【池田純矢】「冷静に考えると、“なんなんだろう、この仕事”って思ったりもするんですけどね(笑)。でも、そういうもので救われる人がいるというのも事実だし、胸張って誇りを持ってエンタメをやっているんだ!と言いたいなと。なので、観に来て楽しい時間を提供します!というところは僕の信念でもありますので、今回の作品もきっと楽しんでいただけるんじゃないかなと思います」
――今回、サロメ役を演じる豊原江理佳さんは、オーディションで選出されたキャストなんですよね。
【池田純矢】「僕も昔は毎日のようにオーディションを受けては落ちて、受けては落ちて…っていう日々を送っていましたけど、オーディションって結局は運命の出会いなんですよね。それは自分が受ける側でもそうですし、審査する側でもそうだなと。今回『エン*ゲキ』シリーズとして初めてオーディションを実施したんですが、300人ほどの女性の方々に参加していただいて。しかも、みなさんすでにデビューされている方々なので、そりゃみなさんとても魅力的でした」
――今回のオーディションでは、どんなところを重視して審査したんですか?
【池田純矢】「今回のオーディションでは、自分が書いた台本の中から一部を抜粋したお芝居とダンス、歌唱の3つのポイントに分けて、全員の方にそれをやっていただきました。歌・芝居・ダンス、それぞれめちゃくちゃ上手いなと思った人ももちろんいましたが、決まるときってそういう技術みたいなところだけじゃないんだなって思いました。今回の作品においては、やっぱりこの作品のキャラクターに合っていて、その上ですべてをこなせる人がいいなと」
――そんな中、豊原さんはどのような印象だったのでしょう?
【池田純矢】「豊原さんがオーディション会場に入ってきた瞬間、“おっ!”というのがあって。彼女の出身がドミニカ共和国であるというルーツに関して、サロメという王女は物語の中で異質な存在なんですが、その異質さみたいなものをこの演劇で表現するときに、彼女のルーツはすごく武器になるなとピンときたんです。そんなことを思いながら彼女を見ていたら、お芝居も素敵だし、歌も歌えて、踊りもできて、何でもできる方なんだなと。僕はいろんな項目に分けてオーディションのチェックリストを作っていたんでですが、最終的にそのオーディションシートを見返したら、それが全部◎だったのが、豊原さんだけだったんです。今回の作品において、とても魅力的な方だなと思い、サロメ役をお願いしました」
――運命的な出会いがあったということですね。『デビュー』は役者志望の読者が多いのですが、キャスティングする側から見て、池田さんが“この人と一緒に仕事をしたい”と思う役者さんの共通点って何かありますか?
【池田純矢】「たとえば、今回の松岡さんであったら、お芝居や歌、ビジュアル、人柄、どれをとってもとても魅力的な方なんですが、大きな枠で考えると、僕の中では“人柄”ってすごく大切なんですよね。なぜなら、一緒に命を懸けてもらわないといけないわけですから、その瞬間だけは。舞台上で一緒に命を燃やしてもらわないといけないってなったときに、やっぱり信頼できる人じゃないとそこは託せない。自分が生んだキャラクターたちのことを我が子のように思っているので、愛する子どもを嫁に出すような気持ちでその役者さんに託すわけですから、“人柄”というのはとても大きい部分だと思います。たとえば単純に面と向き合って話している雰囲気だったり、なんでもいいんですけど。そういうのって千差万別で、僕がいいなと思った人を嫌だと思う人もいるかもしれないし、誰かが嫌だという人を僕は良いなと思うこともある。こればかりはフィーリングだったり、運やタイミングだったりするのかなと思います」
――それはオーディションにも通じることですよね。演技力などの技術面も大事だけど、それ以上に“人柄”という内面が大切だと。
【池田純矢】「すべてにおいてちゃんと真面目に向き合っているかどうかだと思うんです。ちゃんと真面目に向き合ってさえいれば、それを見てくれている人は必ずどこかにいるハズ。なので、心を磨くということが大切なのかなと思います」
――池田さんは、22歳のときに「エン*ゲキ」シリーズの第1作目を上演されていますが、そもそも演劇を作りたい、脚本・演出をやりたいと思ったきっかけってなんだったんですか?
【池田純矢】「すごく大まかなことを言ってしまえば、僕の中で役者をやっているのと、作・演出をやっているのってあまり変わりはなくて。なんでやっているのか?というのを突き詰めると、演出家、作家のときは視点を切り替えてやっているということでもないし、なんで自分は役者をやっているんだろうっていうのと同じことなんですよね。よく聞かれるのは、『最近、作家や演出家としていろいろとやっているけど、最終的にはそっちに行きたいの?』って言われるんですけど、そんな風に思ったことは1ミリもなくて。
あっちもこっちも僕の中にはないというか、役者だったら台本に対して自分が思うことを汲み取ってそれを表現するじゃないですか。それを思うと、その“表現する”という、最後のアウトプットの場は結局何をするにしても一緒なのかなと。本を作るにしても、演出をするにしても、たとえばアニメの声優だったり、歌を歌ったり、どれもアウトプットの瞬間は“表現する”っていうことに変わりはない。だからこそ、違ったことをやっているという認識はぜんぜんないんですよね。僕的には同じ目線で同じようにやりたいことをやっていたら、こうなったというだけなんです」
――では最後に、芸能界デビューを夢見る読者に向けて、池田さんが思う“夢を叶えるために大切だと思うこと”とは?
【池田純矢】「挑戦すること、そしてやり続けることだと思います。何かを始めようとするときって、いい訳しがちじゃないですか。たとえば、お金が無いから…とか、一歩踏み出す勇気がないのを何かのせいにしちゃダメだと思うし、やりたいことが見つかっているのであれば、とりあえず飛び込んでみたほうがいい。それで失敗したとしたら、失敗したでしょうがない。これは自分に言い聞かせていることでもあるんですが、“たかだか5回や10回の失敗で諦めるなよ。本当に全部やりつくしたのか?”と。
僕は何も諦めたくないし、妥協したくないし、やりたいと思ったらやる。ただ、“仕事”となると大人としていろいろと考えるわけですよ。たとえば、何かを作るときに100万円費用がかかるけど、利益は30万円しか出ませんってなったら、それはやらない。仕事になった瞬間にいろんなものを守らないといけない責任が生まれてくるので。でも、その責任がないうちは何をやってもいいんじゃないかなと」
――今だからこそやれることはたくさんあると。
【池田純矢】「本当にそうだと思います。デビューしたいなという思いがあるなら、どんどんやったほうがいいと思う。こんなにも何でも力になる仕事ってほかにないと思います。どんな経験でもそれが仕事に活かされるというか、フラフラ遊んでいたことが糧になったり、悲しい体験、悔しい思いが力になったりもする。とにかくいろんなことをやって触れてみて、“自分の感性ってなんだろう”って考え続けることが大切なんじゃないかなと思います。偉そうなこと言える立場の人間でもないし、これは、あくまで一個人の考えですけどね!(笑)。とにかく興味のあること、いろんなことをやってみたほうがいいと思います!」
■公演情報
エン*ゲキ #04『絶唱サロメ』
東京:2019年10月5日(土)〜13日(日)紀伊國屋ホール
大阪:2019年10月26日(土)・27日(日)サンケイホールブリーゼ
原案:オスカー・ワイルド
作・演出:池田純矢
音楽:和田俊輔
出演:
松岡充
豊原江理佳 納谷健 小浦一優(芋洗坂係長)吉田仁美 池田純矢
鈴木勝吾 シルビア・グラブ ほか
製作:バール サンライズプロモーション大阪 関西テレビ放送
【プロフィール】
池田純矢(いけだ・じゅんや)●1992年10月27日生まれ、大阪府出身。バール所属。2006年『第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』準グランプリ。『海賊戦隊ゴーカイジャー』(EX)で伊狩鎧/ゴーカイシルバー役を演じ、注目を集める。その後、様々な作品で活躍する一方、2015年には自身が脚本・演出を手がける企画「エン*ゲキ」を立ち上げ、第1回公演『君との距離は100億光年』で舞台演出家デビュー。第2回公演では弱冠24歳にして紀伊國屋ホール上演を果たす。近年の主な出演作は、ミュージカル 『HEADS UP!』、舞台『オセロー』、映画『曇天に笑う』、ドラマ『今日から俺は!!』(NTV)、『トレース 〜科捜研の男〜』(CX)、舞台『PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice』など。