数々の映画祭で注目される新進気鋭の監督・石橋夕帆の映画『左様なら』が20日から音楽と映画の祭典『MOOSIC LAB』（新宿K’s cinema／渋谷UP LINK）で上映される。Twitter・Instagramで若い世代の支持を受ける人気イラストレーター・ごめんの初期の短編漫画を原作に、期待の若手女優・芋生悠、祷キララらを主演に据え、登場人物やエピソードを大幅に加えてオリジナル脚本で映画化した本作。長編デビュー作の上映を控える石橋監督に、2016年の短編『それからのこと、これからのこと』以来のタッグを組み、本作制作のキーマンになった主演女優・芋生悠との交流、映画『左様なら』の制作裏話について聞いた。

　高校生の由紀(芋生悠)は平穏な日々を過ごしていた。ある日、中学からの同級生の綾(祷キララ)が亡くなる。綾の死をきっかけに複雑な感情を抱えた由紀は、クラスの女子からハブられるようになり、クラスメイト達の人間関係にも思わぬ波紋が広がる。友人の死、いじめがあってもなお、当たり前のように続いていく「日常」を繊細に新たな切り口で描く、次世代の青春群像劇『左様なら』。

　石橋監督と女優・芋生悠の出会いは、2016年の短編『それからのこと、これからのこと』にさかのぼる。「まだ彼女が熊本から通っている頃だったと思います。『それからのこと、これからのこと』の前半パートのキャストで、誰かいい女優さんはいないかと探しているときに、後半パートの古山憲正くんが“今こういう女優が気になってます”というリストを送ってくれて、そのなかに芋生さんがいたんです。ネット上で観られる広告や映画予告などの動画と写真、プロフィールぐらいしか情報がなかったんですが、魅力的な人だなと感じて。彼女が高校を卒業する時で、作品も高校の卒業式の日のお話なのでタイミングもいいだろうなって思いました」。

　実際に芋生に最初に会った印象を「あんまりカッコつけてないというか、ヘンな背伸びをしていなくて、嘘が無い人だなって」と振り返る。そして「作品自体が、男の子と女の子が、卒業式で別れちゃうけど、卒業してからも続くのか続かないのか、みたいなほのかな作品。あまり具体性がいらないからこそ、人物それぞれの魅力で、自由度の高い撮り方をしたい」という意図のもと「ちゃんと腹を割って話して、その雰囲気の中で作り上げました。台詞は半分ぐらいしか脚本に書かれていなくて、本人たちのイメージから膨らませたアドリブがほとんどで、そこは本人の魅力が出ればいいなと」いう現場だったという。結果「芋生さんの魅力で撮れた作品だなと思う」と、監督の目に狂いはなかったようだ。

　その後も、連絡を取り合っていたという監督。「実は、案外役者さんとプライベートな付き合いが無くて。実は芋生さんとか、『左様なら』にも出てもらった日高七海さんの2人ぐらいなんですよね。そこは単純に人として好きなので、今も交流させていただいていて。映画とは関係なくコミュニケーションを取れているほうが、演出をつけ易い部分もありますし、普段何気なく話していることから『左様なら』のヒントをもらったところもあります」。なお『左様なら』では、芋生と日��には「ゴリゴリに当て書きをしている」という。「本人の中にありそうなものを、私が勝手に妄想して書いているところもあるんですけど。本人にハマりそうな口調などは、普段から話し込みの量が多いと、台本にしやすいですね」。

　以前、芋生はインタビューで、『左様なら』で演じた由紀役について、「自分の見たくない部分や、嫌な部分を見抜かれていた」と明かしていた。石橋監督は「普段は天真爛漫で快活な人物を演じることが多いらしいし、そういう役がハマると思うんですけど、いかに何もしない状態で芋生さん自身の魅力を引き出せるか、みたいな挑戦ではありました。この子は本当はどう思ってるんだろうって、観る人によって変わるという役を演じてもらいたいと思ったんです」という。「芋生さんは、ちゃんと自分を持っていそうで、自信がない部分がきっとあって。周りから観たらどんなに魅力的でも、100％になりきらない、どこか空っぽに感じている部分があるんじゃないかなと思う。芋生さんは貪欲で、やりたいことに挑戦して、輝いて見えるんですけど、悪い意味ではなく、ずっと乾いて満たされない人なんだろうなって。由紀の核になっているのはそういう部分かなって思ったんです」。

　実は今回、原作のごめんと石橋監督を引き合わせたのも芋生だった。「ごめんさんと別の企画で知り合っていた芋生さんに、間をつないでもらったんです。そこから、ごめんさんの漫画を私が映画にして、私の映画をごめんさんが漫画にするっていうラリーをやりたいっていう話になって、ちょうど『MOOSIC LAB2018』があるからエントリーして撮ろうということになったんです」。さらに「その打ち合わせの帰りに、たまたまSNSを開いたら、芋生さんと祷さんのお二人が一緒に写っている写真が出てきて。芋生さんの作品の上映イベントを祷さんが観に来ていた時で、初対面でこんなに雰囲気があう二人って、由紀と綾みたいな存在なんだろうなって思って、『左様なら』の主演を二人にお願いしました」と、芋生を通じた縁がこの映画の元になった。なお、映画のスチルを担当するフォトグラファーの柴崎まどかも芋生の仕事でつながっており、題字も芋生の筆によるものだという。

　今のところ、2作品目のタッグだが、普段からそれぞれが面白いと思った漫画や音楽、などの共有をするなど、映画の現場を離れた部分でも交流が続いている。芋生曰く「妄想、想像力がすごいですよね！　二人で“もし、こういう人物がいたら…”っていう話になったら、すごいところまで行きます」。その妄想力で、芋生を主演に妄想した映画が、すでに三本ほど脳内で再生できるという。いつかこの監督と女優のコンビの作品が、インディーズの枠を超えて商業映画としてロードショーされることを楽しみにしたい。

■『MOOSIC LAB 2018』映画『左様なら』上映スケジュール】

11月20日(火) 21:10〜新宿K’s cinema
11月25日(日) 19:00〜新宿K’s cinema
11月30日(金) 21:10〜新宿K’s cinema
12月11日(火) 18:20〜渋谷UP LINK
12月12日(水) 21:10〜新宿K’s cinema

■石橋夕帆（監督・脚本）

2015年、監督作品『ぼくらのさいご』が田辺・弁慶映画祭コンペティション部門に選出され映画.com賞を受賞、横濱HAPPY MUS!C 映画祭で音楽映像部門最優秀賞を受賞。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、福岡インディペンデント映画祭、小田原映画祭、新人監督映画祭等。国内複数の映画祭に入選。 2016年、『それからのこと、これからのこと』を監督。同年6月にテアトル新宿、シネリーブル梅田で開催された田辺・弁慶映画祭セレクション2016で監督作品の特集上映を行う。 2017年、『atmosphere』『水面は遥か遠く』『いずれは消えてしまうすべてのものたちへ』『閃光』を監督。『水面は遥か遠く』がショートショートフィルムフェスティバル&アジア2017ミュージックショート部門奨励賞を受賞。同年、TBSドラマ『コウノドリ』放送直前SPナビ番組の取材ディレクターを担当。

■芋生悠（岸本由紀役）

1997年熊本生まれ。2018年2月に映画『野球部員、演劇の舞台に立つ！』(中田節夫監督)が公開。ぴあ初日満足度ランキング1位を獲得。4月には主演短編映画『ひとひら』(吉田奈津美・町田梨華監督、是枝裕和監修)が第9回沖縄国際映画祭にノミネート、上映。また第2回未完成映画 予告編大賞『MI-CAN』にて主演作『ヒノのヒゲとレインコート』(八幡貴美監督)が大根仁賞を受賞。『あの群青の向こうへ』(2018年／96分／主演)で、『2018門真国際映画祭』最優秀主演女優賞を受賞。ラジオでも初のメインパーソナリティとして4月からFM MOOV「芋生悠 はじめてのラジオ」(火曜9:30〜10:00放送)にレギュラー出演。ステッカー所属。