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2018/11/06 07:01
ももいろクローバーZ公式記者・小島和宏、渾身の活字ドキュメント文庫化 ももクロ番記者の仕事の裏側を語る
アイドルグループ「ももいろクローバーZ」を2011年から追い続けている“ももクロ公式記者”小島和宏氏。彼が綴った“濃密すぎる”活字ドキュメント『ももクロ○○録』シリーズ4作品が初めて文庫化され、11月7日発売の『ももクロ活字録』を皮切りに3ヵ月連続で朝日文庫から刊行される。発売に先駆け、その著者である小島氏にインタビュー。“ももクロ”インサイドレポートを執筆する公式記者の仕事の裏側について聞いた。
11月7日に発売となるのは、2011年4月から2013年8月までの密着記である『ももクロ活字録』と2013年8月から2015年5月までの『ももクロ見聞録』。以下12月7日発売の『ももクロ吟遊録』(2015-2016)、2019年1月上旬発売予定の『ももクロ独創録』(2016-2017)へと続いて行く。この4つの本は過去に全て違う出版社から刊行されたものだが、文庫化にあたって、古屋マネージャーとメンバーが共同で描き下ろしたイラストで表紙を統一し、各書にメンバー一人ずつが読書感想文を寄稿、まとめて手元に揃えて読むことが出来るシリーズに生まれ変わった。
ただし、内容については手を入れず「ほぼそのまま」で「版元が朝日新聞出版なんで、校閲がメチャクチャしっかりしていて。過去のデータの間違いや誤字脱字をとことん綺麗にしてもらった感じ」だという。まだ“公式記者”ではなく、一人のファン目線のライブレポート集として書いてきた『活字録』についても「最初“この機会に書き直す?”って聞かれましたけど、そうすると本の内容が変わって来てしまうので。みっともない部分もあえて」と、当時の手触りをそのまま残している。『活字録』には熱い佐々木彩夏(あーりん)推しの記述もあり「読書感想文で高城(れに)さんドン引きですからね(笑)。“あーりんあーりん言って、ひどい、マジで!?”って、読まれてバレました。隠してたつもりが、あーりんにも読まれて…」とメンバーへのカミングアウトにもなってしまったようだ。
その佐々木が読書感想文で『ファンと関係者の「ちょうどあいだ」みたいな人』と評する小島氏。「ももクロ公式記者」の仕事について「ももクロは映像のアーカイブがしっかりと残っているので、誰でも活動を振り返ることはできるんですが、カメラが入れないところで起きていることはお客さんには見えない。そういう部分を活字でフォローしてきた」と語る。それは『見聞録』収録の「2013.12.25『もうひとつの、ももいろクリスマス2013!』」の裏舞台に象徴的だ。
「クリスマス特番の時の阿鼻叫喚ぶりったらなかった。クリスマスの夜に玉井(詩織)さんと佐々木さんが、見ているこっちが切なくなるぐらい、“失敗したーっ”って床に突っ伏してわーわー大号泣して。川上アキラ(マネージャー)がメンバーに、怒るでも慰めるでもなく、わりと核心を突いた言葉をボンと投げるという。こんなにメンバーが泣いていたら、部外者は居ちゃいけないよなぁって退くところも、川上さんは“一部始終を見てやってください”という。なかなかそこまで居させてもらえる現場はないんですよね。カメラが入っちゃうと生々し過ぎるし、メンバーも意識して、構えたり、作ったりしてしまうようなところも、活字なら素のまま残すことができるんです」。
メンバーのコメントを取材する方法も独特だ。「川上さんがプロレス好きなので“プロレスの取材みたいなのをやってほしい。プロレスラーは試合が終わったらコメントを出すものだから”という感じで初期はやってました。僕が舞台袖で待っていて、メンバーが戻ってくるのを待ち構えているスタイルが当たり前になってきて、そこで“今日はどうだった”“お客さんはどうだった?”という最新のリアクションを取るんです」。また、出来るだけICレコーダー等は使わずにメモし、取材感を出さないように気を配る。「取材用の構えた場よりも、ライブ前のケータリングにいる時とかのほうがポロっと生の声が出るので。そこまで取材させていただけるのがありがたいですし、それはちゃんと活かさないと。地方での取材のときはホテルに帰ってから、速攻で取材メモをパソコンに記録して残しています。忘れたらもったいないので」。
ももクロのターニングポイント的な場面には、川上氏から「確信犯的」に呼ばれることもあるという。「今年4人になって、これからのことを川上さんに聞くために呼ばれて行ったら、それが4人になって初めて振り付けを変える日で。そういう貴重な場面、場面に立ち会わせてくれるんです。それは活字にして残しておかないと、ファンは知ることが出来ない。完成していくまでの一連の流れを見た上でのライブで、ライブが終わった後の本人たちのコメントに繋がって行く。だからプロレス記者の時代の取材に近いのかもしれないですね。道場に取材に行って、地方興行も観て、それが東京ドームの試合に繋がって。そういう仕事の仕方が染み付いてるんだと思いますね」。
かつては全てのライブや活動をコンプリートする勢いで取材できたが、今では全国47都道府県ツアーやソロ活動など、個人では追いきれないほど活動が拡大。取材という点と点を線で結んでももクロの物語を紡ぐ公式記者は「自分の嗅覚を信じて」全国のライブに駆けつける。「ライブを観ていて“あれ? これって3ヵ月前のあれとつながって…。ってことは、ここも行っといたほうがいい…”みたいな線が見えてきたりするんです。でも結構意表を突かれて“こことつながってたか〜”みたいなことがあるので、点を増やす作業は怠れないですね。線で結べなくなるので。特に運営サイドから“この会場を取材してください”と指定されるわけじゃないので、自分で“ここは欠かせない”というイベントをチョイスしていかなくちゃいけないんですよ」。
スケジュールは常にももクロに振り回され気味で「編集の人にも“他のアイドルにはここまで追う番記者はいないですよ”って言われますから。もし公式記者をやりたいという人がいても、お勧めは出来ないです(笑)。めちゃくちゃ振り回されるので。この振り回されについて行けないというか楽しめない人は多分、この仕事できないですもん」と自虐めいた言葉を語る顔は楽しそうだ。
公式記者という仕事は、完全に帯同してオフィシャルな情報を発信する『広報』とは立ち位置が異なる。だから「半分内側にいて、半分外側にいる感じ。あくまで“外から見てどうよ?”っていう」視点にはこだわっている。「意識して他のアイドルの現場も観ておくようにしています。ももクロだけ観て“ももクロすげー”って言ってるだけじゃなくて、業界全体のバランスを見ていないといけない。そのなかでももクロはどうなんだっていうのは把握しておかないといけないと思います」。
そして“半分外”から得た見識をメンバーに伝えることもあるという。「ライブに対しては、なるべく客席目線は捨てずにいたいので、いろんな席から取材したりします。今47都道府県ツアーをやっていますけど、前半はいただいた関係者席で観て、途中から2階席の最後方とか固定カメラの横で観てとか。メンバーを取材するのと同時に、“客席から観たらこうだったんだけど”っていう意見を伝える役割も担ってるのかなって勝手に思っています。記者とアイドルっていう関係性ともちょっと違って、スタッフでもないし、すごく独特な立ち位置」。
一方メンバーも、小島氏の言葉を、自分たちのパフォーマンスを映す鏡にしている。「先日のミュージカルを観に行った時、(百田)夏菜子ちゃんから『どうでした? どうでした?』と質問責めにあったので、ぼんやりと観てはいられないですよ。会場の空気感も含めて五感を研ぎ澄ましておかないと、何を聞かれるか分からないので、結構エネルギーを使いますね」。それだけメンバーと公式記者は真剣勝負の間柄でもある。「なあなあじゃないんですよ。それもあってなるたけたくさん見ていないといけないと思いますね」。
写真がほぼ載っていないアイドルの本を、数多くのファンが求める状況には「ありがたいですけど、いまだに不思議な感覚」を覚えるという。しかし活字だから記録できたももクロの姿は確かにあると語る。「以前のももクロを知らない人も、この本を読んで気になるライブがあったら、DVDで歴史を逆流することができます。ライブを観た人にとっても、実は裏でこんなことがあったということを知ってもらえたら。国立競技場の時に夏菜子ちゃんが風邪をひいていたことを書くべきかについては相当悩みました。夏菜子ちゃんの状況を知っているのと知らないとでは、国立の映像の見え方が全然違いますから。本人はどんなに体調が悪かろうと表に出したくない人で、嫌がることは分かっているから、極力そういうことは書かずに来たんですが、この節目の日、本番何十分前に声が出ないという危機的な状況を見てしまった以上は書かざるを得ないなあって。本広克行監督のドキュメンタリー『はじめてのももクロ』で一連の流れは分かるんですが、そういう表歴史の裏側にあるものが、この本にはいくつも入ってるんです」。
2010年ごろからアイドルについて書く仕事を始めたが「さすがに50歳になってアイドルの仕事はやってないだろうって思っていたんですけど、余裕でやってるっていう今の自分が不思議ですけどね」と笑う。ただし、『ももいろクローバーZ』という稀有な存在を、活字で記録し続ける『公式記者』の言葉にはプライドがにじむ。小島氏はこれからもももクロを追って現場を飛び回るだろう。
■小島和宏(こじま かずひろ)
1968年、茨城県生まれ。ライター、編集者。89年、二松學舍大学在学中に「週刊プロレス」の記者となる。8年間の記者生活ののち、スカイパーフェクTV!を経て、現在に至る。2010年ごろからアイドルに関する執筆活動を本格化させ、2012年からはももいろクローバーZの「公式記者」として取材にあたっている。著書に、『ぼくの週プロ青春記』『活字アイドル論』『3.11とアイドル』『中年がアイドルオタクでなぜ悪い! 』『ももクロ×プロレス』『Negiccoヒストリー Road to BUDOKAN 2003-2011』など多数。