感涙ベストセラー原作“せか猫” あらゆる世代の胸を打つ、やさしい愛の物語 - 佐藤 健 | Deview-デビュー
佐藤 健

撮影/草刈雅之 取材・文/永堀アツオ 

2013年に本屋大賞にノミネートされ、国内外で累計部数120万部を超える川村元気のベストセラー『世界から猫が消えたなら』が、佐藤健&宮アあおい共演で実写映画化。余命わずかと宣告された主人公『僕』と、「大切なものをひとつ消すことと引き換えに1日の命を与える」という取引をもちかける『悪魔』の2役に挑戦した佐藤健のロングインタビュー。
「“せか猫”は自分のキャリアの中でも、一番と言っていいくらいの勝負作になった」
佐藤 健
――原作が発売された当時、すでに手にとって読んでたそうですね。
「そうですね。すごくいいストーリーだなと思いましたし、感動したのを覚えています。当時、頭のどこかでは、“きっとどこかで映画化するだろうな”と思いながら読んでいたのですが、自分がやることはないだろうと思っていて。というのも、単純に自分がまだ22〜23歳で、主人公は30代前半の設定だったので、自分ではないかなと思っていました」
――では、主演でのオファーが来た時はどう感じました?
「“自分じゃないだろうと思っていた”という意味で、すごく驚いたし、同時に嬉しかったです。そのあとに脚本をいただいたのですが、分かりやすく言うと、『僕』と『悪魔』の二役をどうやったら面白くなるかなっていうのが一番の課題だなと思っていました」
――『Deview』としてはそこが一番聞きたいところなんです。余命宣告を受けた30歳の『僕』と彼の前に現れる同じ姿形の『悪魔』をどう演じ分けようと考えていましたか?
「監督とすごく話し合いました。時間もかかったし、苦労したことなのですが、クランクインの前に2日間くらい、リハーサルをやらせてもらったんです。そこで『悪魔』のキャラクターを探りながら作っていきました。要は『悪魔』って、実際にはいないファンタジー要素の強いキャラクターなので、言ってしまえば何をしてもいいんですよね。正解がないし、何をしても正解になりうるキャラクターであって。その中で“どのテンションでいくか”とか“どういう顔をして、何をするか”というような取捨選択が難しい作業でした。それは、実際に撮影に入ってからも、監督に1つ1つ指示をしてもらいながら、細かく調整していった感じです」
佐藤 健
――『僕』との関係性に関しては何か意識してました?
「『僕』と『悪魔』はセパレートして考えていきました。逆に、『僕』の方はすんなりとキャラクター作りができたので、『悪魔』のキャラクターとだけ向き合って作っていきました。最終的に行き着いたのは、ちょっと意地悪っぽいんだけど、嫌味ではないくらいの、そこら辺いそうな、普通の兄ちゃん。でも、どこか非現実的なところを匂わせるくらいのキャラクターとして印象に残ればいいなって思っていました」
――ネタバレになるので詳しくは話せませんが、クライマックスに向けての変化が巧みでしたね。
「それも、『悪魔』だけに向き合っていく上でのテンションの調整なんです。同じ顔をして、同じ服装をしているから、フラットになっていけば、自然と正体が見えてくる。そこは、僕の中ではあんまり重要視してないです。お客さんに想像してもらうところで、芝居でどうしようっていうことはあんまり考えてなかったです」
佐藤 健
――先ほど、「『僕』の方はすんなりとキャラクター作りができた」とおっしゃっていました。また、完成報告会では「作品の中の僕の感情に沿って、僕が嬉しかった時は嬉しかったし、泣いている時は泣けた。こういう作品はなかなかない」ともおっしゃっていましたね。
「普通にいい映画だから感情移入して、入り込んで観れたっていうことなのですが、この映画は、『僕』と『彼女』に役名がないということが特徴的です。例えば、名前があったとして、たかしくんとジュンコさんの物語を観て、そのストーリーに感動するのではなくて、『僕』と『彼女』の物語を観ながらも、あなた自身の物語を思い起こして、感動してほしいという映画です。そういう意味では、人によって感動するポイントが違うし、年齢や状況によっても違う。また、同じ人でも観る時期によって違う感じ方をしてもらえると思うんです。そういった意味でいうと、『僕』はあくまでも媒体なんです。現場でも『僕』を通して、あなた自身の人生を思い起こしてくださいというような演技を求められていたし、そういうキャラクター設定ができたらいいなと思いました。色でいうと“透明”だったりするんじゃないかなと思っていました」
――年齢を問わずに誰もが自分を投影できる『僕』を演じるのは、分かりやすく突飛なキャラクターを演じるよりも難しくないですか?
「難しい役でした。これまでやってきた役も全てやりがいがあったし、難しくはありましたが、自分のキャリアの中でも一番と言っていいくらいの勝負作になったなって思っていて。登場人物が少ない中、ほぼ全てのシーンに『僕』が出ている。自分の芝居がこの映画の成功に直接つながるし、自分がダメだったら映画がダメになるっていうことは感じていました。その覚悟があった上でオファーを受けて、『僕』をやるって決めたので、自分にとっては、今までの作品の中でも特別な勝負作になっています」
佐藤 健
――『僕』のかつての恋人である『彼女』を演じた宮アあおいさんとは初共演になりますが、役者としてはどんな印象を持ちました?
「一緒にやっていて楽しかったし、かなりの刺激とインパクトを受けました」
――対峙して感じた凄さってなんでしょう?
「本当に自分という芯を持っていて、決して揺るがないんですよ。いい意味で、女性であそこまで頑固な人もいないと思いました。僕も芝居をする上で、気持ちを大事にしたいし、気持ちでやるお芝居が一番いいんだって思っているのですが、監督にいろいろ言われたりして、“ここは感情よりも技術でやったほうがいいのかな”って揺れ動いたり、迷ったりすることがあるんです。でも、あおいちゃんは全体にブレずにずっとやられていて。改めて、俳優はこうあるべきだなって思えました。これまでにいろんな女優さんを見てきましたが、その中でも特別でした」
――お二人の回想シーンとして、アルゼンチンでの撮影もありましたね。ユネスコ世界遺産にも登録されている、大迫力のイグアスの滝での撮影はいかがでした?
「皆さんにも人生で一度は是非行って欲しいです。とにかくすごい場所でした。単純に美しいとか、いろんな絶景がある中で、ただただエネルギー量だけで勝負していく世界遺産なんです。だから、本当にもう壮大なエネルギーと向き合う気持ちですよね。水がきれいだったりはしない場所なので、とてもかっこいいなと思いました。撮影の合間に、滝つぼの中に入るボートツアーにも参加したのですが、水の中にいるみたいな感じで、びしょ濡れどころじゃなかった(笑)。でも、僕は絶叫マシーンとか好きなので、楽しかったです」
佐藤 健
――これは何度も聞かれているかと思うんですが、人生の中でこれが消えたら変わってしまうという大切なものをあげるとすると?
「すでに200回くらい聞かれています(笑)。全部同じ答えになってしまうのですが、やっぱり、お米ですね。本当に米がないと無理です(笑)。アルゼンチンに2週間いただけで、気がおかしくなりそうになっていましたから」
――お米以外にもありますか? 例えば、本作のキーワードになっている電話/映画/時計/猫のように人と人の絆をつないでいるものでいうと。
「映画はもちろん、音楽もそうですね。友達と繋がっているものの1つです」
――本作には“思い出の映画”がたくさん出てきますが、佐藤さんが役者として影響を受けた作品を挙げていただけますか。
「たくさんあるのですが……一つ選ぶとしたら『ダークナイト』です。今、映画界で漫画実写化ブームですよね。でも、もはや、ブームというか、文化になりつつあると思っていて。最初は批判的だった声も少なくなってきている。その中で、『バッドマン』という漫画をハリウッドが実写映画化して。以前『るろうに剣心』の映画を作る上でも、漫画実写の目指すべきものというか、1つのお手本のような映画だと思っていたんです。現場でも『ダークナイト』の話題になったし、クリストファー・ノーランっていう言葉が飛び交っていたので。そういう意味で大きな影響を受けた作品の1つです」
佐藤 健
――デビューを目指している『Deview』読者は、10代〜20代という若い世代が多いのですが、本作を通してどんなことを感じて欲しいですか?
「10代の読者にどう届くかが、未知数ですね。この作品は観る人によって、刺さるシーンが違うし、印象に残るシーンが違うんです。例えば、僕が原作を読んだときと、監督が原作を読んだときでも、いいと思うシーンが全然違ったりしたんですね。だから、どういうところで感動してもらえるかが、本当にわからない。ただ、僕は映画として、この作品はとても好きな作品なんです。ストーリーは王道で、シンプルで無駄がないけど、分かりやすすぎる映画にはなってないし、上品で、おしゃれで高級感のある仕上がりになっている。そのバランスのおかげで、僕にとっては大好きな映画になっているし、この世界を目指している人や、映画が好きな人には絶対に観て欲しい作品です。そして、実際に観た後、是非感想を教えて欲しいですね」
――では最後に、読者へのメッセージをお願いします。
「僕なんかが偉そうなことは言えないし、わからないけど、とにかく一生懸命に生きて欲しいです。何が正解とかはないけど、『自分にとって何が正解なんだろう?』って考えることは絶対に正解だと思うんです。そうやって、常に考えることから逃げずに、一生懸命に人生を過ごして欲しいです」
Profile
佐藤健(さとう・たける)●1989年3月21日生まれ、埼玉県出身。アミューズ所属。2007年のドラマ『仮面ライダー電王』(テレ朝系)で一躍脚光を浴び、その後『ROOKIES』(TBS系)やNHK 大河ドラマ『龍馬伝』、映画『BECK』、映画『るろうに剣心』3部作などの話題作に次々と出演。近年の出演作としては、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』、ドラマ『ビター・ブラッド〜最悪で最強の親子刑事〜』(フジ系)、TBSドラマ60周年特別企画 日曜劇場『天皇の料理番』、映画『バクマン。』など。10月15日には映画『何者』の公開が控える。
映画『世界から猫が消えたなら』
5月14日(土)全国東宝系にてロードショー
世界から猫がきえたなら 世界から猫がきえたなら
(C)2016 映画『世界から猫が消えたなら』製作委員会
原作・川村元気による感涙ベストセラー『世界から猫が消えたなら』が映画化。
主人公の『僕』は、30歳の郵便配達員で、愛猫・キャベツとふたりぐらし。ある日、脳腫瘍で余命わずかと宣告されてしまった『僕』の前に、自分と同じ姿をした『悪魔』が現れる。うろたえる僕に悪魔は「この世界からひとつ、大切なものを消せば、一日の命をあげる」という取引を持ちかける。何かを得るためには何かを失わないといけない。電話、映画、時計…そして猫。何かを消す度に、大切な人とのつながりや思い出も消えてしまう。次々と世界から大切なものがなくなっていく中で、かつての恋人や親友、家族との温かい思い出に触れ、自分にとって本当に大切なことは何かに気付いていく――。
これは余命わずかな主人公に起きた、せつなくもやさしい愛の物語。

公式サイト: http://www.sekaneko.com/
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