姉妹の役を取り換えて『女中たち』を演じ分ける - 矢崎広×碓井将大×中屋敷法仁 | Deview-デビュー

撮影/草刈雅之 取材・文/えびさわなち ヘアメイク/仲田須加

20世紀半ばのフランスの作家、ジャン・ジュネの傑作戯曲『女中たち』が、今最も注目されている若手演出家・中屋敷法仁演出で7月に上演される。今作では女中たち姉妹を、若手実力派俳優の矢崎広&碓井将大が演じ、さらに姉妹の役を取り換えて『女中たち』を演じ分ける交互上演に挑戦!! そんな注目作を控える3人のわきあいあいインタビューをお届け!
「二人はすごく信頼・尊敬している俳優さん 今回も“愛”という名の無茶ぶりを…(笑)」(中屋敷)
――対談に入る前から、撮影では和気あいあいとした雰囲気でしたね。
中屋敷「これは、声を大にして言いますが、矢崎くんと碓井くんは最も“甘えたくなる”俳優です。すごく信頼を寄せているんです。だからこそ逆にすごく雑な扱いもしてしまうんですが……」
矢崎「ちょっと、ちょっと(笑)」
中屋敷「自分が信頼・尊敬している人にはついグイグイいっちゃうんです。それを“愛”という名の言い訳にしちゃうんだけど……雑な扱いや無茶ぶりをしちゃう結果になっちゃうんですよ。今回も“愛”という名の無茶ぶりをさせてもらいましたけど(笑)」
矢崎「そうなんですよ! 交互に役を入れ替えての公演ですからね」
中屋敷「これね、誰が見たいって、僕が見たいんですよ。ジャン・ジュネの作品を、矢崎くんと碓井くんならちゃんと表現してくれるのはわかるし、一緒に創作の旅に出るのは楽しいなっていうのは理解しているんだけど……ちょっと見えちゃった気もして。予想通りのものができちゃう危険を感じたんです。“もうちょっとギリギリな二人を見るにはどうしたらいいんだろう”って思った結果、こうなりました」
矢崎「これ、本当にギリギリになります。最初、姉妹を交互に分けて演じると聞いたときも、まだ先の話だし、そこまで実感もなかったんです。でも台本をいただいて、事前に本も読んで、いざ作業に入ったときに“これはとてつもないことだ!”って感じたんです。しかも会話劇ですし……」
中屋敷「あとはキャラクタリゼーションかな。全く別の役をやるわけではないですし。どちらも同じ『女中たち』ですから。同じ環境下にあって、その中でちょっとザラリと関係が違っていて、シンクロする場面もあれば全く違う見解を持っている時もある。さらにどちらも演じるわけで……」
矢崎「言葉だけでは入らないかもっていうのは感じます」
――中屋敷さんからご覧になった、俳優としてのおふたりの魅力というのは何でしょうか?
中屋敷「圧倒的に二人はクレバーですね。非常に頭がいい。でもそのことに二人は気づいてないなってこともわかっています」
矢崎「……え?どういうこと?(笑)」
碓井「あははは(笑)」
中屋敷「探求心が旺盛で、結論をつけることに興味がなさそうだし、ひたすら吸収したがる。毎回、毎回、いろんなことを追い求められるんですよ。能力が高いことは大前提で、さらにそこからの吸収率や貪欲さを見ていても、賢いなって思います。ジャン・ジュネの作品は単純に“お勉強ができる”っていうレベルではクリアできない作品であることと、それだけでは稽古場が面白くないものになってしまう。そう考えたときに、“勝手に勉強する”、“勝手に創造する”、そういう頭を使うことに労を惜しまない人たちですね」
碓井「公演自体AパターンとBパターンとが9回ずつあって、本当に同じ公演数で見せるんです。同じだけ僕らはソランジュでありクレールである。登場する人数は少ないけど、この物語の中の奥行とか外の世界みたいなものまで、お客さんに見せてあげたいというのはあります。住んでいるのはどんな街で、外にはどんな景色が広がっているのか」

矢崎広
――そんな期待感高まる『女中たち』を作るみなさんが、お芝居に目覚めたきっかけを教えてください。
碓井「僕は、2年前に芝居を学ぶためにアメリカに留学していたんですが、“芝居”を改めて考えて、学ぶ、すごくいい時期だったなと感じます。映画学校に入って、基礎的なメソッドもあるんですが、そのほかにも必須科目で『監督』や『ライティング』とかもあって。それは“ポイントオブビュー”といって、違う角度から役者を見るというクラスなんですけど。“監督から見た役者”、“脚本家から見た役者”“役者から見た役者”などをしっかり学ぶんです。そこで学んだことで、“役者をもっと深めたい、芝居を深めたい”って思うようになりました」
矢崎「僕は、中学で進路を決めるときに、“自分が何をしたいのか、何になりたいのか”って考えたんです。その時に“一度きりの人生だから”と思い、“東京で役者になりたい”と思って行動して、今に至ります。どうして“役者になりたい”に辿り着いたかというと、昔から戦隊ごっことかしていたり、テレビっ子だったこともあって、ドラマも大好きだったんです。そういうことが影響して、中学で進路を決めるときに“役者になろう”って思いました。ただ本格的に芝居に目覚めたきっかけは……いろんな人に怒られてきて、声変わりするように、だんだんと目覚めていった感じだと思います」
中屋敷「僕は勉強、スポーツ、クラブ活動、恋愛……小中、高、大学とぜんぜん褒められたことがなくて。唯一学芸会とかで出し物をしたりするときだけは、褒められたんです。だからそれ以外、褒められることが何もなかったんですよね。良かったです、演劇があって(笑)。大学でもサークルの飲み会で、ひとりコントやったときはめちゃくちゃウケてくれたけど、入ってかなり経っても名前すら覚えてもらえなかったからね。こんな珍しい苗字なのに」
碓井「中屋敷!珍しいのに(笑)」
中屋敷「演劇があって良かった。ほかの才能がなさ過ぎたんです」

碓井将大
――その“舞台”の魅力というと何だと思いますか?
中屋敷「一口には言い表せないでけど、『女中たち』もそうなんですが、SMの関係性ですよね。人前で感情を露わにするってすごく恥ずかしいからMですよね。それを見にくるお客さんはSだと思うんです。その赤の他人同士の契約関係が劇場内で結ばれる感じ。テレビや映画では味わえないと思うんです。“今日も見せる”という俳優さんの方が立場が上のようでありながら“じゃあ見せて貰おうか”というお客さんの方が立場は上な気もするんですよ。お客さんは寝ようと思えば寝られちゃうし(笑)。その特殊な、ワンステージ限りのセッションにドキドキするんです」
碓井「“生”なところがいいなぁって思います。僕は15歳くらいの時に観た、鈴木砂羽さんの舞台での衝撃が大きいです。あとは『海辺カフカ』の宮沢りえさんの妖艶さにも刺激を受けた。生だからこそ、その場を共有する感覚というのはありますよね。数百人分の1人としてでも、この場で舞台に立つ人とセッションしている感覚は魅力だと思います」
矢崎「僕は小劇場で芝居をやったときに、お客さんの顔がすぐ傍にある状態で芝居をしていて。そんな近い距離で呼吸して僕の演技を見ている人がいるのに、僕たちはその人がいないものとして演技しているのが面白くなってしまって。“この状況で演技するのって面白いな”って。その場を共有することの面白さですよね」

中屋敷法仁
――では、これまでも数多くの舞台を演出されてきた中屋敷さんが“また仕事したい”と感じる役者さんというのはどんなものを持った方なんでしょうか?
中屋敷「僕はいつも言っているんですが、役者なら誰とでもお仕事したいです。何度でも。ただそれは裏を返すと僕が役者だと思っていない人とは仕事したいと思わないってことです」
矢崎「おお!」
碓井「すごいですね、それ」
中屋敷「“自分は役者で、役を演じる”というプロ意識や覚悟がないと嫌ですね」
――貴重なお話を伺いました! それでは最後に『女中たち』への意気込みをお聞かせください。
中屋敷「僕は、二人(ソランジュとクレール)の台詞を全部覚えるってことと、筋トレをするっていうのを自分に課しています。その心持ちで臨んで、初日には筋肉がついているというのが、こっそり僕だけで思っている意気込みです」
矢崎「シアタートラムに立つのが初めてなんですが、憧れの場でもあるので幸せです。そしてこの作品を演じられるのは大変ではあるんですが大変光栄なことで、この3人で作れるのも本当に嬉しい。周囲からもすごく期待されているので、幕が上がったときにその期待に負けない自分でいたいなと。それがお客さんへの意気込みであり、自分への意気込みでもあります」
碓井「デビューから8年目になるんですが、いろいろと大きな舞台、作品にも出させて頂けるようになってきました。そんななかで、自分の立ち位置みたいなものが去年くらいから変わってきて。以前は、D-BOYSのDステとかでも、上の先輩たちが先頭に立ってくれていたけど、近年では、自分がどう向かうのかというものをより求められるようになってきたんです。今回も矢崎くんと中屋敷さんと、僕らが向かう先を決めていく。この『Deview/デビュー』を読んでこの世界を目指している方たちにも知っていてもらいたいんですが、この世界は入ってからが長いし、学ぶもの吸収するものもたくさんあるなかで、自分たちで考え決めて行かなければいけない。そのことを体現したいと思います。8年前と今とでどれだけ人が変わるのか。そんな、僕の成長も見てもらいたいと思います」
Profile
矢崎広
やざき・ひろし●1987年7月10日生まれ、山形県出身。トライストーン・エンタテイメント所属。主な出演作に、『ジャンヌ・ダルク』(白井晃演出)、ミュージカル『薄桜鬼』シリーズ、『フランダースの負け犬』(中屋敷法仁演出)など。ミュージカルからストレートプレイまで幅広いジャンルで活躍中。

碓井将大
うすい・まさひろ●1991年12月3日生まれ、東京都出身。ワタナベエンターテインメント所属。舞台『千に砕け散る空の星』(上村聡史演出)『ピアフ』(栗山民也演出)『テンペスト』(白井晃演出)ほか、舞台や映像作品に多数出演。映画『TRASH/トラッシュ』(10月24日公開)、映画『忘れ雪』(今秋公開)への出演が控えている。

中屋敷法仁
なかやしき・のりひと●1984年4月4日生まれ、青森県出身。劇作家・演出家。高校在学中に発表した『贋作マクベス』にて、第49回全国高等学校演劇大会・最優秀創作脚本賞を受賞。青山学院大学在学中に、劇団「柿喰う客」を旗揚げし、全作品の作・演出を手掛ける。近年では、外部プロデュース作品も多数演出。
トライストーン・エンタテイメント
『女中たち』
7月11日(土)〜7月26日(日)シアタートラム
【作】ジャン・ジュネ 【翻訳】渡邊守章
【演出】中屋敷法仁
【出演】矢崎広 碓井将大・多岐川裕美

1947年の初演から60年経った今でも、世界中で上演され続けている、ジャン・ジュネの傑作戯曲『女中たち』。奥様のいない留守に奥様の部屋で、「奥様と女中」の“ごっこ芝居”を繰りかえす女中の姉妹、ソランジュとクレール。女中たちの奥様への激しい憎しみと愛情が入り混じった複雑な想いは、「奥様と女中」ごっこに留まらず、主人の警察の密告に繋がり、そして奥様殺害計画へとエスカレートしていく。しかしこの演戯は、やがて自らを生贄に捧げる危険な“ごっこ芝居”へと進み、破滅へと向かっていく。
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