撮影/横井明彦 取材・文/若松正子
スタイリスト/伊藤省吾 ヘアメイク/岩田恵美
NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』や映画『そこのみにて光輝く』、『海月姫』、『暗殺教室』など、数多くの注目作に出演し、実力派俳優として着実にステップアップを遂げている菅田将暉。話題作を次々と手掛ける福田雄一監督による、5月16日公開の映画『明烏 あけがらす』では、最下位ホスト・ナオキを熱演。役柄によってまったく異なる芝居で魅せる、カメレオン俳優の彼に、役づくりへのこだわりなどをたっぷりと語ってもらった。
「僕にとってアフロで芝居ができるなんて“極上のデザート”みたいで嬉しかった(笑)」
――映画『明烏 あけがらす』のトピックのひとつはやはりアフロ姿の菅田さん! しかもハマってます!!
「アフロは、前からやってみたかったので嬉しかったです。僕にとってアフロで芝居ができるなんて、極上のデザートです(笑)」
――“デザート=オプション”と(笑)。
「この映画は、僕が演じるナオキという最下位ホストが、一千万円の借金の返済のためにあたふたする話でありまして。しかもキャッチコピーの“誰も頼りになりません”という通り、周りの人たちはふざけていて、本気で焦っているのはナオキだけなんです。そうなると僕は“(役として)もっと遊びたい”って欲を捨てなきゃいけない。かといって、あまりにフツーでもここには立てないなってなったときに、アフロで上下黄色の80年代風のスーツ姿っていうのはすごくやりやすいなと思いました。しかも僕自身、やっている最中はふと“やべ、これカッコイイんじゃない?”って、自然に思えたのも良かったですね(笑)。この格好を本気でイケてると思っている、ナオキの美学を持ちながら演じられましたから」
――『勇者ヨシヒコ』シリーズなどを手がける福田雄一監督の現場は、アドリブも多く独特の雰囲気があると聞きますが。実際はどんな感じでしたか?
「アドリブはそんなにないんですが、台本自体に余韻があるんです。たとえばムロ(ツヨシ)さんや(佐藤)二朗さんのセリフは、“(めちゃくちゃ褒める)”としか書いてなくて、あとはお任せだったり。だから、劇的なアドリブがないところが福田組の不思議なところで、それだけ脚本がうまく書かれているんでしょうね。ただ、今回は撮影期間が1週間弱というめまぐるしさだったから、本当に瞬発力が必要で。そうなるとどうしても自分の地や素が出そうになる。そことの闘いというか、この映画はワンシチュエーションものならではの空気感が大事なので、それを乱しちゃいけないっていうことにすごく気を遣いました」
――ずっとハイテンションな状態を維持するってことですよね。そうなると興奮して眠れない日もあったんじゃないですか。
「いや、爆睡でしたね(笑)。僕、寝ることに関しては神がかっていて、どんなに周りがうるさかろうと大丈夫なんです。睡眠スイッチみたいのがあるみたいで、たぶん工事現場でも眠れます」
――最近は、女装男子とかダメ男とか、濃い役が多いですが。菅田さんは芝居に関しても別人になりきるスイッチみたいなものがありそうですね。
「ダメ男は、どの役だろう?」
――たとえば、ドラマ『問題のあるレストラン』の星野大智役とか。
「あ〜!って、“どのダメ男だ?”っていうのも変ですけどね(笑)」
――見事なダメ男っぷりでした(笑)。それぐらい役によってカレオンのように変化するというか。徹底した役作りをする印象があります。
「それは嬉しいです。でも、今回はナオキがホストらしくないホストなので、そこまで細かい役作りはしていなくて。それよりも相手との新鮮なやりとりを純粋に追求していくことを大事にしました。ただ、それは今回の現場だからそういうやり方をしただけで、役によってアプローチはまったく変わってきます。『海月姫』の女装男子は、撮影前にやらなきゃいけないことがたくさんあったし」
――まず、ビジュアルを変える必要がありましたよね。
「そうなんです。しかも『海月姫』は、その前に『ごちそうさん』で昭和の野球少年をやっていたので、まず気持ちの部分で昭和から平成にならないといけない。で、次は男から女になるっていう感じで、段階的に役作りをしていきました。でもそれって、自分が気持ちよく現場に立つための自己満足に近いものなんです。“このセリフをどうやったら言えるか”“どうしたらその役の佇まいを出せるか”というイメージをしていって、そのために肉体改造が必要ならする……という感じなので。だから役のバックボーンを含めて、イメトレはすごく大事。ただ、いざ本番になったら、“芝居をしている”という意識があったらダメなんです。その意識を忘れるぐらいどんどん役を刷り込ませていくというか……」
――“演じる”でのはなく“在る”状態になると。
「でもいきなりそういう状態になるのは難しい。最初の頃に撮るシーンって、“ただ歩く”とか、劇的な場面じゃなかったりすることが多いので、その段階で何となく役にチューニングを合わせていくんです。その後、感情が表に出るシーンやストーリーが展開していくときにはもう、無意識に演じられるように仕向けていくという感じで。だから自分の後ろにいつも“調律師”がいるっていう感覚かもしれないです。ひとつの役を構成する六角形のグラフみたいなものがあるとして“頭脳”とか“感情”とか、それそれの要素を徐々に合わせていくんです」
――そのスタイル=役作りはどのように会得したんですか?
「現場で培ったものです。やっぱり実践が一番の経験値なので。僕は何の訓練もなく『仮面ライダーW』の現場に入ったんですが、本当に良かったなと思うのは、そこで1年かけて役を作れたことなんです。しかも(仮面ライダーの台本は)アテ書きのような部分も多かったので、ちゃんと自分を知って、どこを増やしてどこを減らせば役を作れるかっていう訓練ができたというか。それって、ときにナルシストになり、ときに自分を嫌いにもなることで、要は主観と客観の両方を持つということなんです。そのためには何かに“こだわらない”ことが大事。僕がやっている“役作り”はそういうことのような気がします」
――なるほど。では、まだ実践ができないデビュー前の子たちは、どんなことをしておけばいいと思いますか?
「作品をたくさん観ることですかね。やっぱり“好きこそものの上手なれ”で、映画とか舞台とかたくさん観ている人って、観てない人よりはお芝居がわかるし、自然と技術が身に付いていたりするんですよね。それで、実践でやってみて、“あ、やるのと観るのはこんなに違うんだ”ってわかるのもまた進化だし、プラスの経験になる……。って、僕もエラそうなことは言えないですけど(笑)」
――いや、すごく参考になります! あと菅田さんは、『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』のオーディション出身ですが、受けるときの心得ってあります?
「あくまで僕自身の経験ですけど、ウソをつかないことじゃないですかね。自分を大きく見せても、へりくだり過ぎてもダメで、オーディションは、素直にそこにいられる人が勝ちな気がします。それか、どうしてもその役を取りに行きたいなら、徹底的に役作りをして追求をしていくとか。そこは作品によっての戦略で、有名な話だと、映画『ピンポン』オーディションで、中村獅童さんが眉毛を全部剃っていったって聞いたことがあるんですよ。それで、見事、受かったわけで、それぐらい自分の中で勝算を作って行くこともひとつのやり方ですよね」
――ありのままの自分でいくか、逆に作り込んでいくかってことですね。
「どっちかであり両方でもあって、オーディションって難しいですよね。僕もいまだに緊張するし正解もわからない。でも、だからこそ、やりがいのある世界だと思います」
菅田将暉
すだ・まさき●1993年2月21日生まれ、大阪府出身。トップコート所属。5月30日スタートのNHK総合 連続ドラマ『ちゃんぽん食べたか』で主演を務める。映画『ピース オブ ケイク』(9月5日公開)、映画『ピンクとグレー』(2016年公開)、映画『二重生活』(2016年初夏公開)に出演。
すだ・まさき●1993年2月21日生まれ、大阪府出身。トップコート所属。5月30日スタートのNHK総合 連続ドラマ『ちゃんぽん食べたか』で主演を務める。映画『ピース オブ ケイク』(9月5日公開)、映画『ピンクとグレー』(2016年公開)、映画『二重生活』(2016年初夏公開)に出演。
映画『明烏 あけがらす』
(C)2015「明烏」製作委員会
5月16日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー
脚本・監督:福田雄一
出演:菅田将暉/城田優 若葉竜也 吉岡里帆 柿澤勇人 松下優也 新井浩文 ムロツヨシ 佐藤二朗
ドラマ『アオイホノオ』『勇者ヨシヒコ』シリーズ、映画『HK/変態仮面』などで人気を博す福田監督が、ホストクラブを舞台に描いたシチュエーションコメディ。『明烏』『品川心中』など古典落語の演目をベースに、借金返済に追われるホストと頼りにならない仲間たちの慌ただしい12時間を描く。
脚本・監督:福田雄一
出演:菅田将暉/城田優 若葉竜也 吉岡里帆 柿澤勇人 松下優也 新井浩文 ムロツヨシ 佐藤二朗
ドラマ『アオイホノオ』『勇者ヨシヒコ』シリーズ、映画『HK/変態仮面』などで人気を博す福田監督が、ホストクラブを舞台に描いたシチュエーションコメディ。『明烏』『品川心中』など古典落語の演目をベースに、借金返済に追われるホストと頼りにならない仲間たちの慌ただしい12時間を描く。