「とりあえずやってみて、そこで自分の可能性を発見していただけたらいいんじゃないかな」
――先日行なわれた、映画『ちはやふる -下の句-』の初日舞台挨拶で、続編の制作決定がサプライズで発表されましたね。
「そうなんです。[下の句]の公開日だし、本当は[下の句]の話をしないといけないのに、キャスト陣はみんな、続編に対する期待ばかりを話してしまって(笑)。広瀬すずちゃんは、膝から崩れ落ちて号泣しちゃうし、舞台上は大変なことになってました」
――(笑)。[上の句][下の句]ともに好評ですが、ご自身にとってはどんな作品でしたか?
「キャスト同士がすごく仲が良くて。普段の映画だと、撮影期間が短いので、なかなかこんなに深く仲良くなれないんですね。でも、『ちはやふる』のメンバーとは、別々の現場で働いていても仲良くいられているなっていう実感があって」
――それはまさに[下の句]のテーマですよね。離れていても繋がってる絆を感じるという。
「そうなんですよ。本当に素敵な出会いだったし、貴重な時間を過ごさせていただいたなっていう思いでいっぱいです」
――また、映画では“なぜかるたをやるのか?”という原点に対する問いかけも1つのテーマになっていました。その“かるた”のところを“芝居”に置き換えると、森永さんはどう答えます?
「あ〜、それは難しいですね(笑)。でも、まず、かける情熱という部分では、(広瀬すず演じる主人公)千早にとってのかるたと、僕にとってのお芝居では似ていると思います。何事に対しても一緒ですけど、あの一瞬に向かって集中するというところはお芝居ともつながるなと感じました。“なぜやるのか?”という問いに対しては、僕はいろんな人の人生を見るのが好きなんです。普通に生きていると、一人一つの人生しか生きられないけど、役者という仕事は、いろんな人の人生をかいつまんで覗くことができる。すごく得している気分になるし、魅力的なことだなと思っています。それを楽しみに僕はお芝居をやっているのかなって思います」
――その“魅力”や“楽しさ”に気づいたのはいつ頃ですか?
「中学生に入ってからですかね。小さい頃は習い事感覚の方が強かったので、そこまでお仕事としての意識はなかったんです。でも、中学生になって、映画『プリンセス・トヨトミ』をやった時に、普通の学生ではない、まるっきり他の人の人生を覗いているような感じがあって」
――坊主頭でセーラー服姿のいじめられっ子の役でしたね。
「なかなかいないじゃないですか。もちろん、隠れてやっている方はいるかもしれないけど、自分がそういう嗜好でない限りは経験できないことで。自分とは違う、全く別の人生を経験させてもらっているという感じがしたので、そこから“他の人の人生を歩むことができる仕事なんだ”という楽しさを感じるようになったと思います」
――それが15歳の時ですよね。森永くんは4歳から子役として活動していますが、そもそもこの世界に入ったきっかけはなんだったんですか?
「たまたまおじが撮った写真が、うまく撮れたという理由だけで、勝手に劇団のオーディションに送っちゃったんです。そしたら、家に“一次審査が通りました”というお知らせがきて。そこで、母親から『歌とかダンスを教えてくれるみたいだけどやってみる?』と聞かれた時に、当時、歌やダンスが好きだったので、『じゃあ、やってみる』って答えて、地元の大阪の劇団に通うようになったのがきっかけです」
――これまでの役者人生を振り返って、特に転機になったと思う作品は?
「おかげさまで良い経験をさせていただけるような作品ばかり携わらせていただいて。どの作品も本当に転機ばかりなんですけど、大河ドラマ『花燃ゆ』で、井上真央さん演じる文の弟・敏三郎を演じさせていただいたことは大きかったと思います。まだ手話も成立してない時代の聴覚障害者の役をやらせいただいたんですが、役者は言葉を使うお仕事だし、言葉を使う生活の中で、ジェスチャーだけでいかにお芝居をするかという。普段、言葉を使うことが多い仕事に対しての考え方やアプローチの仕方も、ちょっと変わったり、別の考え方を持てたりした作品だったなと思います」
――いつ頃から“自分は役者として生きていくんだ”と決意しました?
「ちょうど中学2年生の時ですかね。僕が今の事務所にお世話になる時に、“役者という仕事で生計を立てていきたい”という決意をして。当時は大阪の劇団に所属していて、大阪でオーディションのチャンスをいただいていたんですけど、どうしても東京のほうが作っている作品数も多いし、オーディションの数も全然違っていて。このまま、ずるずるやっていても、お仕事として食べていけるくらいにはやっていけないだろうなって思っていた時に、ちょうど今の事務所の方との出会いがあって。朝ドラ『ウェルかめ』をやっていた時だったんですけど、そこで、自分はこれで食べていけるように頑張るんだって決意しました」
――ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)に所属して6年になりますね。現在『SMA BOY’S AUDITION ダンリョク!』が募集中ですが、森永くんから見てどんな事務所だと思いますか?
「本当にありがたい限りだなと思うんですけど、お仕事はものすごくしっかりしてくださって、かといって、ガチガチした感じではなくて。仕事終わりに普通にマネージャーと一緒にご飯に行ったりするし、いろんな会合やご飯会もある。時には、所属アーティストさんのライブに誘ってもらうことがあって。仕事ガチガチな感じじゃない、ホームっていう印象ですかね。仕事をやりやすい環境だなって思います」
――森永くんは子役の頃から様々なオーディションを受けていると思うのですが、いつもオーディションで心がけていることはありますか?
「自分のことを“スポンジになれ”って思っています。言われたことは頭ごなしに否定したり、跳ね返したりはせず、なんでも吸収して帰ろうと思っています。それは、いろんな役をやらせていただくようになって、より感じるようになったことなんですけど。やっぱり経験してやるのと、経験しないでやるのとでは、全然重みが違ってくるんですよね。そこで、知らないことに対しての知識や経験を増やしていかないといけないと思った時に、“何事も吸収しないとな”と思うようになって。オーディションの結果は、その時その時で違うけれども、どんな時でも吸収することはできるので、“スポジになれ。スポンジになれ”っていう思いでやっています」
――“失敗したな〜”って思うような経験はありますか?
「そんなに落ち込むほどの失敗したことはないかな……。便利な脳みそをしているので(笑)、自分が忘れているだけかもしれないんですけど。ただ、ありがたいことにたくさんのオーディションの機会をいただいているので、ひとつのことに落ち込んでいたら、次に影響を及ぼしてしまうようだともったいないと思うんです。だから、悪いことは忘れるようにしています。引き出しに閉じ込めているだけなので、ふとした時に出てきちゃうことはありますけど(笑)、そんなにずるずる後を引くことはないです」
――ちなみに、今回のオーディションは、【ダンリョク=男力×弾力(はじけとぶほどの“なにか”)を持つ男子を大募集】ということでで、森永くんが、コレは他のには負けない!という武器やこだわりを教えてください。
「よく『今の若い人たちにはなかなかいない雰囲気を出してるよね』と言われるので、それが人とは違う利点というか、自分の武器になるものなのかなって思います。『男なのにふわっとしてるよね』って言われることが多いので、マシュマロというか、綿あめというか」
――スポンジに、マシュマロに、綿あめと、かなり柔らかいイメージですね(笑)。
「あはははは。そういう雰囲気を醸し出しているみたいですね。あと、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』『ちはやふる』で一緒にやらせていただいた小泉監督がツイッターで『森永悠希はオンリーワンの俳優だ』って言ってくださって。その時に、誰かを目標としたり、憧れたりするのではなく、オンリーワンでいようと強く思うようになって。それからは目標としている人をあえて作らないようにしているし、“自分はいろんなものになれる、何になっても馴染める、常に化けられる役者になりたい”という思いでやっています」
――では、最後にオーディションを受けようと思っている子たちへのメッセージをお願いします。
「“チャレンジあるのみ”だと思います。僕なんかが偉そうなことは言えないですけど(笑)、とにかく挑戦し続けることかなって。僕自身、何事に対してもトライしてみるっていうことを大事にしていて。はなから諦めるのではなく、とりあえずやってみて、そこで自分の可能性を発見していただけたらいいんじゃないかなって思います」
撮影/mika(f-me)取材・文/永堀アツオ
森永悠希(もりなが・ゆうき)●1996年6月29日生まれ、大阪府出身。ソニー・ミュージックアーティスツ所属。4歳から地元・大阪の劇団で子役として活動を開始し、様々な作品に出演。主な出演作は、映画/『しゃべれども しゃべれども』、『プリンセス・トヨトミ』、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』、ドラマ/連続テレビ小説『ウェルかめ』(NHK)、『早海さんと呼ばれる日』(フジ系)、大河ドラマ『花燃ゆ』など。公開中の映画『ちはやふる』[上の句][下の句]、ドラマ『お迎えデス。』(日テレ系)に出演中。