美少女だった宮沢りえが40代で手にしたもの(5/5) | Deview-デビュー
2015年1月15日

 東京国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した宮沢りえが主演する『紙の月』。彼女の演じる銀行の契約社員で主婦の梨花が、顧客の孫の大学生の光太(池松壮亮)とあっさりベッドインするのは違和感があったが、この映画では余計な要素は極力切り落とされている。梨花が使い込みをエスカレートさせる描写にフォーカスを絞って。

 最初は高級化粧品を買って手持ちの金がなくなり、レジで顧客に預かった現金から1万円を抜いて支払った。そのときは自分の預金を下ろして、すぐ補てんしたが、光太と一流レストランで食事し、高級ホテルのスイートで過ごし、逢瀬のためのマンションの一室まで借りて、横領が止まらなくなる。偽造証書を何枚も作って。

 原田知世主演のドラマ版では道を踏み外していく感じに描かれていたが、宮沢の梨花は理性のタガが外れて、自分からどんどん悦楽へツッコんでいくようだった。破滅が訪れるのを知りながら、ただ1日でも長く逃げ続けるかのように。やがて光太は梨花の援助をムダにして大学を辞め、若い彼女を作る。そして、梨花の横領が銀行で発覚して…。

 この映画のキャッチコピーは“最も美しい横領犯。”だが、自分は相変わらず宮沢りえを美しいとは思わなかった。これは本当に顔の好みの問題で少数意見だろう。でも、実年齢で41歳になった彼女が年相応にくたびれているのが、かえって染みた。若い恋人と会ってる時間だけ、ニセモノっぽい輝き方をするのも。プロットだけ見れば単純な物語を、梨花の静かな暴走に引き込まれ、息をするのも忘れて見入っていた感覚だった。

 18歳で一世を風靡した美少女が20年を経て、役者として高みに立っているのが感動的。10代の頃の彼女に演技力はさして求められなかっただろう。でも、彼女自身が求め続けた。美少女としての役目が終わっても。今、10代の頃の輝きはなくても、40代でなければ表現できないものが彼女の中にある。(終わり)


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