『若者たち2014』で蘇る夢を捨てた記憶(5/5) | Deview-デビュー
2014年8月20日

 もちろんアイドル的な俳優になれるとは100%思ってなかったが、演技に興味はあって、あわよくば脇で光る役者に…と入った養成所。

レッスン生の段階で落ちこぼれて、才能がないのはすぐわかった。

 本科生への昇格試験を受けるだけ受けて、大学4年だったので、落ちた後は就職を考えようと。試験の後、同じレッスン生と3人で飲んだ。「10代の頃は夢見たことはすべて叶うと思ってたよな」などと語りながら。

 ところが、本科試験は合格と通知が来た。うれしさより、いろいろ考えさせられた。

 自分には意外と才能があるのかも。かと言って、就職せず役者を目指すのか? 成功する人はひと握り。ダメだったら将来どうなる? いや、貧乏暮らしをしても、好きなことを追う人生はいいじゃないか。それは貧乏の本当の辛さを知らないから言えること。

そもそも自分はそこまで演技を好きなのか?

 養成所の講師に言われたことも思い出した。

「22・3歳で劇団をやりながら居酒屋でバイトして『演劇青年なんだ』と言われるうちはまだいい。30過ぎてもそのままで『演劇おじさん』なんて、世間では通用しない」

「養成所の同期同士で劇団を旗揚げすることはよくある。たいてい一回公演をして終わる。劇団員同士で結婚することになると、『芝居をやってる場合じゃない』と辞める」

 結局自分は本科のレッスンを数回受けて辞退し、スポーツ新聞社に就職した。

そっちはそっちで面白いはず…と自分を納得させて。

そこも3ヵ月で辞めて、カナダに留学した。

安定を目指したはずが不安定に逆戻りしたわけだが、自分のようにそこまで本気でなくても、夢を断った後遺症は思いのほか大きかったのかも。留学はリハビリとして必要で。

 そんなことを『若者たち2014』で演劇に打ち込む陽を観て思い出した。今まさに夢と現実の狭間で揺れる人なら疼くだろう。どんな決断をしようと、「若者はまた歩き始める」しかない。(終わり)


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