主役よりも良いポジションの女優(2/5) | Deview-デビュー
2014年4月10日

 『S−最後の警官−』の主人公・神御蔵一號(かみくらいちご/向井理)は、幼なじみの棟方ゆづると兄妹同然に育ってきた。子供の頃、ゆづるとその両親と共に出かけた繁華街で、通り魔事件に遭遇。ゆづるの両親は殺されてしまう。

 ゆづるを演じたのは吹石一恵。大人になって看護師になり、一號に恋愛感情を抱いてるようでもあるが、兄妹同然の幼なじみでもあり、それが家族愛に近いものか、本人にも判然としない様子。いずれにせよ、表面上は恋人のような振る舞いはしない。だが…。

 ダイナマイトを体に巻いたバスジャック犯の確保に一號たちが乗り出し、その現場を中継するテレビを、ゆづるは入院中の祖父と病室で観ていた。犯人を狙撃させまいと単身バスに乗り込む一號の姿に、ゆづるは「いちご!」と叫んでテレビ前に走り寄った。その一瞬だけで、ゆづるがどれほど一號を大切に思ってるかが分かった。

 一號が犯人から引き剥がしたダイナマイトが空中で爆発。噴煙だけの画面を、ゆづるはまばたき一つせず見つめる。そして、涙が流れる。煙が晴れ、一號の無事な姿が映されると、止めていた呼吸を荒げながらホッとしつつ、涙はさらに溢れ出て…。

 一號と犯人の攻防以上に引き込まれた、吹石一恵の迫真の演技。というか、演技と感じさせないほど本当の感情がほとばしるようだった。その後、病院を訪れた一號本人とは言葉を交わさず、祖父に「ムチャしやがってバカ野郎!」と怒鳴られる後ろ姿を微笑んで見つめるだけだったが、その微笑みもまた…。

 自分は吹石一恵のファンではない。率直に言えば、興味ないタイプ。だけど考えてみたら、彼女の出演作は結構観ている。彼女目当てではなかったけど。
(続く)


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