前田敦子の演技が生んだ感動(5/5) | Deview-デビュー
2013年7月3日

 『幽かな彼女』の最終回前の山場。投げやりに退職届けを出した河合千穂(前田敦子)だが、クラスメイトを切りつけて学校を休む京塚りさ(山本舞香)が気になる様子。彼女が小学生時代に自分をいじめた相手の告発文書を送り付けて姿を消したと聞き、「バカヤロー」と探しに走り出す。そして、当て付けに自殺しようとしていたところで向き合う。

 「もっと早くこうしていれば、私はこんなイヤなヤツにならなくて済んだ」というりさを、「ふざけんな、ガキ!」と一喝。「私はあんたよりずっとイヤなヤツだけど、それでも世の中をなめきって生きてるんだよ! だって、死んだら終わりだから」。

 そして、首筋にナイフを当てたりさに体当たりして、頬を叩いて抱き締める。「苦しくても生きてなきゃ意味がないんだよ!」と涙ながらに。裕福な家庭に育ちつつ、守られることも叱られることもなかったりさに、初めて真正面から向き合ってくれた大人…。

 このシーンは泣けた。斜に構えるイヤな女だった河合が教え子を救おうと、なり振りかまわず必死で訴えて。山本舞香によれば、前田敦子のビンタは本気の勢いだったとか。

 個人的に前田敦子はAKB48時代から好きでも嫌いでもない。だが『幽かな彼女』では胸クソ悪い女ぶりに本気でイラつき、りさを助けるシーンに本気で感動した。思い入れはないのに、これだけ心を揺らす女優は多くない。

 ホラー映画『クロユリ団地』での評判もいいようだ。女優としての前田敦子は“センター”ではないが、AKB48のエースという看板が取れて、演技の世界で脇に回ってから、AKB時代にはなかった渋い光を放ち始めている。
(終わり)


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