『Q10』で描かれたかけがえのないもの(5/5) | Deview-デビュー
2010年12月25日

 『野ブタ。をプロデュース』の修二は学校で人気者の仮面をかぶる自分に、本当は何もないのでは…というコンプレックスを抱えていた。平凡な高校生に見える『Q10』の平太にも抱えているものがあった。

 幼少時に心臓病の手術を受け、現在も薬を服用。

病院以来の幼なじみの武彦は再び長期入院中。普段は明るいこの友人が「死ぬのが怖い」と漏らすことも。話の流れ的に平太が死に直面する展開は考えにくい。だが、もしかしたら…という空気が、ほんの少しだが常に漂っていた。考えたら、もしかしたら明日が来ないのは、平太や武彦に限ったことではない。すべての人間がそうだ。

 普通は気にしない微かな死の予感を、平太はそれとなく意識している。だからこそ、キュートと過ごす何気ない日々の大切さに自覚的になれた。未来が永遠に続くと思ってる僕らが、失って初めて気づくことに。

 平太が身の上を「恨んでも良いことは何もなかった。だから、恨みや嫉妬は小さく折りたたんでいった」と言う場面もあった。この深い台詞も、脳出血で体の自由が効かなくなった木皿泉(和泉務)の実感から生まれたのかもしれない。作家と作品をダブらせる必要はないが、うわべでなく響くことは確かだ。

 こんな泣ける脚本で、主演は佐藤健&前田敦子という超人気者。なのに視聴率は辛うじて2ケタ続き。ドラマって何なんだろう? ただ、『すいか』も『セクロボ』も視聴率はふるわなかったが、向田邦子賞を受賞したりと今も多くの人に愛されている。

 最終回、リセットして密かに回収されるキュートが「みんなにもお別れのあいさつをシマス」と、放課後の教室で「サヨウナラ」と告げて回った。

「また明日ね」と笑顔で手を振るクラスメイトたちの姿が、キュートのカメラ型ビジョンに映る。こんな当たり前の光景が"明日"のなかったキュートにも、大人になった僕らにも、もう遠い。だからこそ愛おしくて…。
(終わり)


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