2010年3月31日
『月刊デ☆ビュー』の仕事では、タレント養成所やオーディション取材で、ボイストレーニングの現場を見ることがある。先生がよく言う基本は「お腹から声を出す」「口を大きく開けてはっきり歌う」。
そういう基準に照らせば、原田知世の「時をかける少女」はダメな例…ということになるだろうか。
ささやくような細い声で、今にも消え入りそう。音域が広くないため、サビの高音はいっそうおぼつかない。
でも、というか、だからこそ、この歌は映画同様に名曲だとキッパリ言える。
なぜなら、そうしたヴォーカルのはかない感じが、時の狭間で見失ってしまいそうな少女の無垢な危うさを、実に見事に表現しているから。
楽曲提供のユーミンが歌ったバージョンや、今の『時かけ』のいきものがかりと比べるとよく分かる。
お腹から声を出してはっきり歌ったところで、知世の歌のジュブナイル感は絶対に出せない。
本人は意識してそう歌ったわけではないだろう。その後も現在まで女優・歌手として活躍を続ける彼女だが、『時かけ』の頃の絶対少女としての輝きは一瞬のことだった。
だが、その一瞬の輝きを刻むことこそ、10代のアイドルの仕事の本質。
ということで思い浮かぶ往年のアイドル歌手が、菊池桃子だ。
(明日へ続く)

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