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2020/11/09 18:01
注目の個性派俳優・前原滉、初主演映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』が第21回東京フィルメックスでワールドプレミア
様々なドラマや映画への出演で注目を集める俳優・前原滉の初主演映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(2021年3月テアトル新宿ほか全国順次公開)のワールドプレミアが4日、第21回東京フィルメックスの会場となっているTOHOシネマズ シャンテ スクリーン1にて行われた。上映後には、主演俳優・前原滉と池田暁監督による舞台挨拶、質疑応答が行われた。
長編第2作『山守クリップ工場の辺り』(2013)がロッテルダム国際映画祭、ヴァンクーバー国際映画祭でグランプリを受賞し、続く『うろんなところ』(2017)もロッテルダム、東京、台北、エルサレムといった国際映画祭に出品されるなど、国際的な評価を積み上げてきた池田暁監督の最新作『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』。
いつの時代でもない、ある町。この町は何十年も向こう岸の太原町と目的も分からず戦争をしている。毎日、朝9時から夕方5時までが戦争の時間だ。ある日、町で兵隊として暮らす露木は向こう岸から聴こえてきた音楽に心惹かれていく。そんな中、新しい兵器と部隊がやってくるという噂が広がり、露木や町の人々の生活も変化していく…。独特のセリフ回しと間を用いた池田演出が存分に揮われた本作。不条理な世界で生きていかなければならない人間をユーモラスかつシニカルに描きだしている。
舞台挨拶で池田監督は「撮影から約1年。やっとこのような形でみなさんにお披露目できて本当に嬉しい」と語り、感無量の面持ちを浮かべる。また主人公・露木を演じる前原滉は「未だに続くコロナ禍の中で、このように映画を上映できること、そして皆さんがこうして劇場に足を運んでくださることがすごく嬉しくて。映画は観てもらって初めて完成するものだと思うので、その完成の場に僕も立ち会えて嬉しいです」と観客に感謝の意を述べた。
日本映画の若手映画作家を支援してきた「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の一環である「長編映画の実地研修」。数多くの応募の中から選ばれたのは池田監督の独創的な脚本。本作の発想の原点を聞かれ「毎朝、家の窓から見る一本の線のような川。ふと、川の向こう岸を想像することがあって。一本の線はまるで国境のようにも見えますよね。いまの日本は平和だけど、世界には韓国や北朝鮮のような国もあって。他人事のように思えてしまうときもあるけど、その外側を想像することや知ることは必要なのではないかと思ったんです」と答えた。
主演の前原は、脚本を初めて読んだ際「まず“どうしたらいいのかな…”と周りに相談しました」と笑う。しかし「池田監督が求めるお芝居は感情表現がほとんどなくて、僕らが普通に想像するものとは少し違う。でも、これまでやったことのないことに挑戦してみたくなって。思い切って池田監督の世界観に飛び込んでみました」と出演を決めた経緯を明かす。
独特の演出方法について監督は「なるべく感情を表現しないのは、観ている人にキャラクターの感情を伝えたくないわけではなくて、これでも伝わると信じているから。いろんな映画があっていいと思っています」と言う。過去作にも共通する独特の画作りについては「構図は1枚の絵にしたいというか、あんまり動かしたくないと思っていて。その分、誰も観ていないような絵の隅っこまでこだわって作り込めるんです」と語った。
前原が演じるのは、とある町の軍楽隊に配属になった主人公。「僕は3ヵ月間練習を重ね、トランペット担当を楽隊員を演じました。1日中トランペットを吹くので、1日の終わりには唇の厚さが変わって“ぷるんぷるん”になっていたそうで(笑)。トランペットが嫌いになりかけたんですが、最終的には楽しく吹くことができていい経験になりました」と撮影中の苦労を明かした。
前原をはじめ、今野浩喜、中島広稀、清水尚弥、橋本マナミ、竹中直人、矢部太郎、片桐はいり、嶋田久作、きたろう、石橋蓮司といった個性派が揃った本作。キャスティングについては「演技というよりも個性的な外見の特徴がある俳優を軸に選んでいる」と池田監督は語る。
池田監督は最後に、ワールドプレミアに駆けつけた観客に感謝の意を述べ、「観客として通っていた東京フィルメックスで本作を上映することができて、さらにこれが出発点になるのが本当に嬉しい。この上映をきっかけに多くの人にこの映画が広まっていけばいいなと思っています」と語った。
なお『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』は7日の第21回東京フィルメックス授賞式にて審査員特別賞を授与されている。