ニュース
2020/09/25 20:01
唯一無二の存在感でひっぱりダコの女優・伊藤沙莉、芝居への飽くなき探求心「自分の芝居が完璧だったと納得したことがない」
連続テレビ小説『ひよっこ』、『これは経費では落ちません!』、映画『劇場』、『ステップ』など、数々の話題作に出演し、テレビアニメ『映像研には手を出すな!』では主演声優を務めるなど、幅広いフィールドで活躍中の女優・伊藤沙莉。10月2日公開の映画『小さなバイキング ビッケ』では、夢を信じる心優しく賢い少年・ビッケの声を担当している。オーディションサイト『Deview/デビュー』では、そんな彼女に感動の冒険ファンタジーを描いた本作の見どころや、声のみで表現する芝居の難しさ、1度聞いたら忘れない特徴的な自身の声についてなどの話を聞いた。また、9歳のときに子役デビューを果たしてから、これまで様々な作品に出演してきた彼女が思う、“女優”という仕事の魅力とは!?
【伊藤沙莉インタビュー】
■「“声”という限られた武器だけでお芝居をやるのは、逆に表現力が豊かになる気がする」
――近年、外画の吹き替えやアニメ作品『映像研には手を出すな!』で声のお仕事にも挑戦している伊藤さんですが、映画『小さなバイキング ビッケ』では、少年ビッケの声を担当しています。男の子と女の子の声を両方経験してみて、どのような違いがありましたか?
【伊藤沙莉】「キャラクターの性別による意識の差は、それほどなかったと思います。どちらにしろ、この声しか出ないので(笑)。むしろ性別よりも、年齢設定のほうが大きかったです。『映像研には手を出すな!』での浅草みどりは高校生で、ビッケは10歳。高校生は大人の声の出し方でもいけますが、子どもで、しかもわんぱくな男の子となると、声のテンションが変わってきます。自然と、性別ではなく年齢に合わせた芝居になりました」
――子どものビッケを演じるほうが、より大変だった?
【伊藤沙莉】「最初にやってみたとき、音響監督さんに『君が今演じたのは青年だね。もっと少年を意識してみようか』と演出していただきました。探り探りだったこともあり、声のトーン、テンションが少し落ち着いてしまっていたなと。私の声質のせいか、自分が思っている以上にテンションを上げて演じないと、子どもの声には聴こえないのだとわかりました。前方、もしくは上に出すイメージで発声するよう、意識しましたね。声を出すときの目線も、前か上でした」
――俳優が声を当てていると、その人の顔が浮かんでしまうこともある。伊藤さんの場合は完全に男の子の声になっていたので、作品により没頭できました。
【伊藤沙莉】「そう言っていただけると嬉しいです。少年の声という課題はありましたが、それ以外はとても自由にやらせていただきました。ビッケは、最初のうちはグスングスン言っているのですが(笑)、だんだん、勇敢になっていく。演じる私もビッケと一緒に心から冒険を楽しんでいたら、きっと、それは映画を観てくれる人たちにも伝わる。細かい役作りというよりは、“自分がまずビッケと同じ気持ちで楽しもう!”と思いながら演じました」
■「自信を持てたことは一度もありません」
――収録時間はどれくらいでしたか?
【伊藤沙莉】「午前中に一度練習をさせていただき、午後に本番を4時間弱くらい。午前中のリハのときは自信がなさすぎて、『スタート!』と言われても、すぐにセリフが言えなかったんです。緊張しすぎていたというか(笑)。慣らす時間をいただけたのは、とてもありがたかったです。その上で、午後にはお父さんのハルバル役の三宅健太さんと、イルビ役の和多田美咲さんと一緒に収録させていただきました。お二人には確実にお芝居をリードしていただいたので、本当に感謝しかありません。プロフェッショナルな方たちと一緒に芝居ができるのは貴重な経験ですし、たくさん、勉強させていただきました。お二人の芝居は、とても綿密に練られていて。プロってすごいなと感動しましたし、私も一緒にやらせていただく上で、いつまでも自信がないとか、うじうじ緊張していたらいけないなと思いました」
――自信がないというのが、とても意外に感じます。
【伊藤沙莉】「えっ、そうですか!? 自信はまったく持ち合わせていないんです(笑)。吹き替えってことだけじゃなく、自分が関わる現場で、自信を持てたことは一度もありません。というか、自分の芝居が完璧だったと納得したことがなくて。いつでも緊張して現場に入りますし、観てくれた方の感想を聞くまでは、“大丈夫だったかな…”と心配ばかりしています。私にとって、今の仕事が特技か趣味かと言われれば、趣味のほうが近い。決して、得意でも、特技でもないんです」
――好きだけど、上手いと思ったことはないと。
【伊藤沙莉】「そう、そんな感じです。お芝居が好きだから続けていますが、“お芝居できます!”と思ったことはありません」
――いろんな作品に引っ張りだこで、とても信頼されている印象ですが。
【伊藤沙莉】「本当にありがたいです。このまま、ずっと続けばいいなぁって思います(笑)」
――声が特徴的だということは、かなり前から言われていましたが、伊藤さんは自分の声について、どのように捉えていましたか?
【伊藤沙莉】「最初は、別に好きでも嫌いでもなかったんです。小学生の頃から、周りの大人たちから『おもしろい』と言われ続けてきて、“そうなんだ、おもしろいんだ!? でもウケるならいいか”って。でも一度、アニメのオーディションで『個性がない』と言われたことがありまして。“個性がない? じゃあ、ただ声が枯れているだけなんて、まったく意味がないんじゃ…”と一気に自信を失いました。それからナレーションも含めて声の仕事をいただくようになったことで、“この声だから求めてくれる人もいるんだ”と、プラスに考えるようになったんです。オーディションでも声で覚えていてくれる方がいたりしたので。ずっとコンプレックスだったわけではなく、上がったり下がったりといった感じのまま、今に至ります。最近は、少しずつですが、声で表現する楽しさも感じるようになってきました。まだ、恐る恐るですけど(笑)」
■「お芝居にはゴールがないし、一生飽きないところが魅力」
――人からの評価を、とても素直に受け止めてきたんですね。
【伊藤沙莉】「そうですね。直接言われたこと、いただいた言葉は私の人生にかなり影響を及ぼしています。基本、単純なので」
――声の仕事は、これからも続けていきたい?
【伊藤沙莉】「楽しいことではあるので、機会がいただけるのであれば、やっていきたいです。お芝居全般が好きなので、声での芝居もやっぱり好きなんです」
――どちらがより、難しく感じますか?
【伊藤沙莉】「声のほうですね。ただ、声という限られた武器だけでやるのは、逆に表現力が豊かになる気がするんです。表情や体を使ったお芝居では、声色をそこまで意識していなかったけれど、声だけだとそこに集中することになる。声でのお芝居で経験したことが、実写での芝居の現場で活かされたこともありました」
――滑舌をよくする訓練といったものは。
【伊藤沙莉】「正式に習ったことはないですが、自主練はしました。家でひたすら練習をしてから、録音に臨みました。特に今回のビッケに関しては、外に出られない期間、練習する時間がたっぷりあったので」
――長く役者の仕事をしてきた伊藤さんにとって、役者という仕事のどんなところに魅力を感じていますか?
【伊藤沙莉】「お芝居ということに関してはゴールがないので、一生飽きないところです。ずっと追求していられますから。私は友だちのお母さんに誘われてオーディションを受けて始めたのですが、やってみたら、すごく楽しくて。習い事にバイトにと、これまでいろんなことをやってみた中で、興味が続いたのはお芝居だけでした。むしろ、これしかできないんですよね(笑)」
――ひたすらお芝居が好きな伊藤さんから、役者に憧れてデビューを目指す読者に向けてメッセージをお願いします。
【伊藤沙莉】「私は、お芝居に上手いとか下手というのはないと思っているんです。観る人の好みかそうでないかというだけ。ときどき、SNSで“女優になりたいけど、どうしたらいいですか?”というDMが来たりするのですが、“やってみたらいいのに”と思うんですよ。おそらく、若干の恥ずかしさみたいなのがあるのかもしれない。やると言って、それでなれなかったら…。でも実際、自分がやりたいことをやったほうが、楽しいと思うんですね。私はレッスンやワークショップに参加してお芝居している時間も、とても楽しかったです。仕事につながるかどうかはわからないけれど、お芝居がやれていること自体が、とても嬉しかったんです。なので、興味があるのなら、やってみたほうがいいと思います。やってみないと、それが向いているのか向いていないのか、本当に好きになれるのかそうでもないのかも、わからないですから。
私の地元の友だちにも、絶対にお芝居やったほうがいいよ!という子がいるんです。アドリブで芝居を始めても、普通について来れる(笑)。自分の中に眠っているもの、秘められているものが、照れとか恥ずかしさとかで埋もれたままだとしたら、すごくもったいない。簡単に考える必要もないけれど、自分の中の好奇心や興味には、素直に従ってみてもいいと思います」
撮影/booro 取材・文/根岸聖子 ヘアメイク/AIKO スタイリング/吉田あかね