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2019/05/22 06:01
映画『轢き逃げ ー最高の最悪な日ー』ヒロイン役・小林涼子「20代の最後にこの作品に出会えたことは大きいです」
現在公開中の水谷豊監督作品第2作となる映画『轢き逃げ ー最高の最悪な日ー』に出演中の女優・小林涼子。轢き逃げ事件を引き起こしてしまう青年・宗方秀一(中山麻聖)の婚約者・白河早苗役として、幸せの頂点の花嫁から加害者の妻という最悪の状況までを、映画の中で生きることとなる。20代最後の年、「小林涼子の人生として大きな出会い」と呼べるこの作品について、そして今が“再デビュー”という女優の仕事への想いについて聞いた。
■小林涼子インタビュー/「濃密な時間を先輩方と過ごせて勉強になりました」
――今作で、白河早苗役を受けたときの感想は?
「大手建設会社の副社長の娘ということで、私は庶民の娘ですから“お、お、お…お嬢様だぁ”みたいな気持ちにはなりましたね。脚本を読み終わってから、監督も脚本もあの水谷さんなんだということが自分の中でようやく一致してきて、役者さんが監督をする現場というのはどういうものだろう?っていう、ときめきも不安もありました。早苗は『最高で最悪な日』を迎えるという、変化の大きな役で、実際こんなに大きな役をいただけたことが信じられなくて。撮影前にマネージャーさんに“嘘じゃないですか?”って何度も確認したんですが(笑)、こんなに朗らかで楽しくていいのかなっていうぐらい恵まれた現場でした」
――早苗を演じるうえで大切にしたことは?
「お嬢様というと、鼻持ちならないタイプのお嬢様もいますけど、監督からは“そうはならないでほしい”と言っていただいていました。できるだけチャーミングでユーモアがあって、帰国子女のようなちょっと天真爛漫なところもあって、豊かな人間性であってほしいと。結婚という最高の日までは、特に意識して丁寧にやらせていただきました」
――映画を観ている側は事件が起きたことを知っているので、結婚式までのパートの何も知らない早苗の表情が幸せなほど、本当に切なく感じられます。
「そこまでは彼女の笑顔が見られる部分でもあるので、とにかく綺麗に、楽しく。秀一とのディナーの席では、監督から突然“オペラを歌ってくれ”という演出があったので、楽しくオペラを歌わせてもらったり。本当にこだわった素敵なドレスを着させていただきました」
――秀一と輝が逮捕された後は、全てが一変してしまいます。
「それ以降は、悲しいという以上に、戸惑い、知らないことの不安という部分を大切にしました。彼(秀一)から事件のことを聞くシーンというのは無くて、(観ている)皆さんが知っているのに早苗ちゃんは知らないっていうことがとても多いので。だからほかの現場とはちょっと距離を置きました。たくさんの先輩がいらっしゃるので、演技を見ていたい気持ちもあるけれど、本当は早苗ちゃんが知らないという部分はあまり見ないようにして。影響されやすいほうなので、知っている安心感が出てしまったら、それは違うかなと思って。全体像が分からないことによる不安や怖さが一番大きいでしょうし、事実が受け入れられないという気持ちもあると思います」
――撮影現場では、水谷監督が実際に演じて見せるという演出があったようですね。
「なかなかそんな現場はないですよね。いくら仲が良くても、女優さん、俳優さん同士はなかなか手の内を明かしてもらえないものですし、技は見て盗むものですから。それを手取り足取り、しっかりと演じて見せてくださって。特に男性陣の場合は同性ですから、水谷さんも瞬間の本気の演技を見せてくださるので、ちょっと“うらやましいな、男子”って思ってました(笑)。それでもフッとこちらを向かれたときには、“早苗はこういう顔をしていてほしい”という表情をしてくださって。監督が目の前で一人二役をやっているんですよ! それが本当に贅沢で、勉強になりました」
――そんな水谷演出のなかから盗めたことはありましたか?
「監督は特に手の細かい使い方にこだわってらっしゃいました。接見室の場面で、秀一と早苗の間を隔てているガラスに手を置く。対面している空間には一緒の空気が流れているはずだけど、ここにガラスがあるというのが凄く切ない。ガラス1枚が大きな壁になっているというのを、手を置くことによって、ここから先に行けないというのが伝わるからあったほうがいいとか。檀ふみさんとのお芝居で、こらえきれずにグッと横を向くときも、手の位置は下じゃなくて胸の上のほうがいいとか。全身を細やかに使ってお芝居をするということを教えていただきました。俳優として気持ちの面も見てくださいますし、監督として見え方の面でも見てくださるので、総合的に教えていただける、本当に素晴らしい先生でした」
――作品のテーマは重いですが、現場はピリピリすることもなく?
「超朗らかでした(笑)、珍しいぐらい誰も怒鳴らず。緊張感のあるシーンでも、スタッフさんたちはいい感じにリラックスされていて。“何回でもやってあげるよ”っていう空気感もあるので、私たちは余計なプレッシャーを感じることなく、演技に集中することができました。監督の差し入れの神戸牛もめっちゃ美味しかったですし。現場で鉄板で焼いてるんですよ(笑)! 神戸にいるとはいえ、皆さん遊びに行く時間もないし、毎日撮影が続けばしんどくもなってきますので、監督の神戸牛にはスタッフ一同上がりました。現場での居方、皆さんとのコミュニケーションとの取り方など、今までこんなにも濃密な時間を先輩方と過ごしたことがあまりなかったので、そういう意味でもものすごく勉強になりました」
――毎熊克哉さんとのシーンにはユーモラスな部分もあって。
「確かに悲しいことがあったからって、人間って毎日悲しい顔をして生きているわけではないですし。周りの人たちも全員がお葬式みたいな顔をしているわけではないじゃないですか。それが普通でも、ドラマにするうえで、テイストを合わせるためにみんな悲しい顔一色になりがち。いろんな人がいて、いろんな瞬間があって、でも心の中を占めている大きなものは一つで…というのはすごくナチュラルですよね。役者さんとしていろんな人間を見て、演じてらっしゃるから、人間一人ひとりがみんな豊かだなって思います。それぞれの人間が生きてます」
――早苗の変化が感じられるのも、生きた人間が描かれているからですね。
「登場するシーンは、時間的にちょっと飛んでいる部分もあるんですが、その間に何をしていたのかというのを埋める作業をしていました。結婚する前にどういうところでデートをしていたのかなとか、逮捕の後、お父さんとお母さんとどんな会話をしたのかなとか。この瞬間、この人と会っている以外の時間があって、それによってどういう気持ちで今日ここにいるのかっていう部分は考えるようにしましたね。キャラクターがそれぞれの時間をどう過ごしているというのは、とてもこだわられている点かなと思いましたので」
――映画は謎解き要素やサスペンス要素もありますが、真実に近づいたから終わりではなくて、そこからのことが大事に描かれています。
「解決はしないということが、本当にリアルだなと。赦すことも出来ないし、でも赦されないから終わりでもなくて。白黒がつけられず、いずれどうなるのかっていう部分もしっかりと組まれている脚本で。彼らがこのあとどうやって生きていくのかなっていうのは観終わったあと、考えたりもしましたね」
■「嫉妬心とは今のところ仲良く付き合って来てる」
――この物語のキーワードの一つに“嫉妬”がありますが、どのように捉えていましたか?
「早苗ちゃんは、どちらかと言えば嫉妬される側の人間ですけど、私はむちゃ嫉妬する側の人間でして(笑)。でも、嫉妬心とは今のところ仲良く付き合って来てると思います。嫉妬心に振り回されることもありましたけど、だんだんと自分の中で良い距離感を保てるようになって、時には刺激にしてエネルギーに替えてきました。でも夜中にいろんなことを考えれば、もちろん心を燃やされそうになる瞬間もあります。インスタとか、周りの生活が見えやすくなっているから、自分よりもいい生活をしている人がいれば羨ましいのは当然ですし、逆に自分より下の人を見てホッとしてしまうのも当たり前ですし。誰にでも、どんな年齢の人でも絶対に届く普遍的なテーマだと思いました」
――今回の作品出演を通じて思うところもありましたか?
「4年半めちゃくちゃ一生懸命英語を勉強していたのに、仲が良い子が3ヵ月フィリピン留学に行って帰ってきたら、すーんって抜かされてしまって。とっても悔しくてしばらく会いたくなかったり、英語でメールを送ってくれても、なんだか腹が立って返せないみたいな時期があって。それって自分の劣等感が嫉妬心になっていったものだから、すごくねちっこくて、身を滅ぼす原因になるなと思いました。だから自分に自信をつけられるように勉強しようと。どうやったらそれをエネルギーに替えられるかなって考えました。韓国語を先にマスターして、語学に自信を付けてから英語を勉強したりして…」
――女優という仕事自体が、オーディションで比較されたりするものですよね。
「私も雑誌のデビューさんに14、15歳ぐらいの頃にお世話になって、一時期連載も持たせてもらっていましたけど、そのころも死ぬほどオーディションを受けて、死ぬほど落ちていますからね(笑)。でも悔しい思いをしないと伸びないし、頑張らなくても皆が褒めてくれたら、“これでいいかな〜”ってなるし。“アイツはうらやましいな〜”“またコイツに負けた!”とか、そういう想いがあるから“もっと!もっと!”という気持ちが出てくる。だから嫉妬は決して悪い事ばかりではないと思うので、やっぱり付き合い方ですかね」
――そう思えるようになったのは?
「年齢に伴って、自分の劣等感や嫉妬心を直視できるようになったり、慰めることができるようになったことも大きいかも知れないです。でも夜中に何かを考えちゃダメです。英語で日記をつけてるんですけど、夜中に書くと、ほぼデスノートみたいになってる時期がありますもん(笑)。悪口や悔しいことを書き連ねるとスッキリはするので、それはそれで消化して出してしまって、スッキリして寝るか、もしくは“今日は頑張ろう!”ということを朝になって書くか…。いずれにしても距離感が大事です」
――今回のような作品に、20代の最後に出会えたことは大きいのでは?
「女優をやらせていただいて、もう人生の半分ぐらいになるわけですけど、辞めようと思ったことも何度かあるし、自信が無くなったこともあるし、嫉妬心で狂いそうになったこともあるし。それでも今日まで続けてきて、“これからも女優をやっていけたらいいな”って思えるタイミングを迎えられたことは、作品としてももちろん大きいんですけど、いち小林涼子の人生としても大きな出会いだったように思います」
――現在の事務所「ステッカー」に約2年前に移籍して、新しいスタートを切りました。
「環境がすごく変わりました。今は再デビューで、一から始めようという気持ちです。オーディションに行かなくなった時期もあったんですけど、今はなんでも幅広く受けるようになりました。そういう覚悟ができるようになったという意味でも、この2年間は大きかったです」
――これまであきらめずに女優を続けて来れたのは?
「他に何もできなかったというのが正直なところですけど…。ただ、これ以上に面白い事、やりたいと思える楽しいことが無かった。楽しい事ってやっぱり頑張れるし、そのためだったらなんでも出来た。だから今日までやってこれたのかもしれないです」
――語学を頑張ったことも結果的には女優に繋がっているんですね。
「毎日仕事が無い時期もあったので、気を紛らわせながら、いつか自分に帰って来るというサイクルを想像していろいろなことをやっていました。いずれは仕事のためにと思って一生懸命英語を勉強していたんですが、『ひとりじゃない』という短編映画がドイツ国際映像祭2019でSILVER Awardを受賞して、まさかドイツに行って英語でスピーチする日が来るとは思いませんでした。英語の先生もビックリしていましたし、着物の着付けを習っていたことで、ドイツで着物を着ることになるとは思わなかったし(笑)。人生って思いがけない事の連続なので、何でも力になるなって改めて思っています。今回のことで海外への道も開けたと思います。いつ始めても遅くないのがこの仕事のいいところ。ようやく再デビューを果たしたので、もうちょっと頑張ります」
――最後にデビューの読者にメッセージをいただけますか?
「デビューを読んでいる方は、オーディションをいっぱい受けて、いっぱい落ちて、いっぱいくやしい思いをきっとすると思うし、隣の人が上手くいっていたら、すごく羨ましくもなると思う。常に嫉妬心との戦いなので、嫉妬の行き着く先はどうなっていくのか、自分はどういう向き合ったらいいのか考えさせてくれる映画だと思います。先輩方のお芝居が素晴らしく、私自身が間近でいっぱい勉強できたので、いろいろな役の立場でこの映画を観てもらって、いろんな人の立場で物事を考えることは、きっと役に立つと思います」
こばやしりょうこ●1989年11月8日生まれ、東京都出身。雑誌『ニコラ』(新潮社)の専属モデルとして活躍。主な出演作にTVドラマ「砂時計」(TBS/2007)、「魔王」(TBS/2008)、「主婦カツ!」(NHK/2018)、映画『大人ドロップ』(2014)、『ピンクとグレー』(2016)、『猫は抱くもの』『ハッピーメール』(2018)がある。2019年4月期テレビ朝日開局60周年記念作品 帯ドラマ劇場『やすらぎの刻〜道』に出演。
【小林涼子インスタグラム】
https://www.instagram.com/ryoko_kobayashi_ryoko/
■『轢き逃げ ー最高の最悪な日ー』(公開中)
異国情緒漂う地方都市で起きた交通事故。一人の女性が命を落とし、轢き逃げ事件へと変わる。車を運転していたのは若きエリート・宗方秀一(中山麻聖)、助手席に乗っていたのは親友の森田輝(石田法嗣)。二人は秀一の結婚式の打合せに急いでいた。婚約者は大手ゼネコン・城島建設副社長の娘・白河早苗(小林涼子)。悲しみにくれる被害者の両親、時山光央(水谷 豊)と千鶴子(檀 ふみ)。その事件を担当するベテラン刑事・柳公三郎(岸部一徳)と新米刑事・前田俊(毎熊克哉)。平穏な日常から否応なく事件に巻き込まれ、それぞれの人生が複雑に絡み合い、抱える心情が浮き彫りになっていく。