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2018/03/31 08:01
大谷凜香、映画『ミスミソウ』のいじめ役で鮮烈女優デビュー 「全部が初めて! ストッパーを振り切りました」
雪に覆われた過疎の町に、東京から転校してきた主人公・野崎春花。壮絶ないじめの果てに、家を焼かれ、両親を焼き殺され、妹も全身火傷の重体に。受け止めきれない悲劇に遭遇し心が崩壊する春花だが、事件の真相を知り、己の命を賭していじめグループに凄惨な復讐を開始する…。「トラウマ漫画」として読み継がれ、過激な描写、残酷で絶望的な内容から「実写化不可能」とされた押切蓮介の漫画『ミスミソウ』がついに映画化、4月7日から新宿バルト9ほかにて全国公開される。同作で“クラスの女王的存在”の小黒妙子役を演じたのが、映画初出演にして、本格的な演技が初経験の大谷凜香だ。クラスの中での孤高の存在感と、胸の奥に秘められた春花に対する想いを繊細に瑞々しく演じ切った、今後が楽しみな18歳に話を聞いた。
【『ミスミソウ』小黒妙子役・大谷凜香インタビュー】
◆人生初の金髪にしたことでストッパーが無くなりました。
――映画を拝見しましたが、簡単にジャンル分けできない、感情が激しく揺さぶられる作品でした。実際に出来上がった本編を観た感想はいかがですか?
「原作には実写映像で表現しにくいシーンも出てくるじゃないですか? そこは絵だから世に出ているだけで、映画では無いだろうなと思っていたんですが、台本が届いたら、ちゃんとその部分も書かれていて…『除雪車』とか(笑)。こんなところまで全部映像化しちゃうんだなってところに驚きました。きっと原作を読まれたことのある方や、すごいファンの方もたくさんいらっしゃると思うんですけど、表現の限界という面では、ちゃんと裏切らずにやり切っているところが、映像に残されているなと感じました」
――前評判や宣伝文句で「実写化不可能」と言われています。
「かなり踏み込んで、できるギリギリのところまで挑戦しているのが映画『ミスミソウ』だなと。作品世界を表現するために、叫び声にもより痛く感じる息遣いを挟んだり、刺されたときの身体の動かし方もアクションの方に細かく指導してもらいました。かなり細かい部分まで頑張ったので、それが形になったなぁって」
――『ミスミソウ』の原作漫画を読んだのはいつですか?
「オーディションのお話をいただいてから読みました。オーディションでは原作を読むことが必須ではなくて、読むか読まないかは自分次第だし、あえて読まずに臨むのがポリシーの方もいらっしゃいます。でも私にとっては、世界観が現実とかけ離れすぎていて、原作を読まないと、ちゃんと妙ちゃんの気持ちが理解できないと思ったので原作を読みました。漫画を読むことで、頭の中で実写映像化されるので、一度自分の中に映像として落とし込んで、それから台本でセリフを覚えました」
――オーディションはどのような形式だったんですか?
「役柄を決めずに交代でシーンを演じるグループのオーディションでした。最初、掛け合いセリフのときに、みんなにセリフを言わせる隙もなく、自分のセリフだけバーッて言っちゃったんですね。そんなふうに頭のなかが真っ白になるぐらい緊張していました。でも妙子役として(佐山)琉美と電話をするシーンが回って来たときに、すごく暴力的な言葉も使うので、言えるかどうか直前まで不安だったんですけど、周りのみんなは言い切っていたので、私もここまでやらないと負けちゃうと思って、けっこう勇気を出して怒鳴り散らしました。そこで吹っ切ることができました」
――ここまで演技の経験はほとんどなかったんですよね?
「お仕事でも、レッスンのなかでもなかったです。恥ずかしがっていても、振り切らないと演じ切れないし、作品が作品だけに、逆にやりやすかった部分もあります。一回振り切れちゃうとストッパーが無くなるので、最初に吹っ切ったおかげで、現場ではあまり恥ずかしさもなかったです。妙子の役の感覚が、少しオーディションの段階でつかめたような気がします」
――妙子役に決まったと聞いたときは泣いてしまったそうで。
「それまで、映画なんて自分が出られる世界とは思っていなかったですし、この映画は妙子と春花の関係性が重要なポイントなので、そんな役どころを自分がやってもいいのかって不安になりました。でも原作を読んだときに妙子を演じたいと思っていたので、すごく嬉しかったです」
――妙子の役は人生初めての金髪でした。
「そうなんですよー! 私の場合、役柄上金髪にしなきゃいけなかったので、金髪にしたことでもう一つストッパーがなくなったというか、変なことを気にせず、妙子としていられたような気がして、結構プラスになりました。撮影期間中はずっと金髪だったので、学校や他の現場は逆に黒髪のウィッグを被ってました。この作品を撮影していることは言えないので、ただただグレた子みたいな感じだったかもしれないですね。私自身は、髪の色を変えてみたかったんですが。でも仕事を続けている以上、お話をいただかないと大きく変えられないので嬉しかったです。でも伸びると黒髪が目立つので、頻繁に染め直してもらったり、ケアが大変でした」
◆感情がMAXのシーンでは想像以上にぐちゃぐちゃな顔になってます。
――初めて臨む映画の撮影現場の空気はいかがでした?
「ほぼ全部が泊まり込みのロケだったので、コテージを用意していただいて、野崎春花役の山田杏奈ちゃんと最初から同じ部屋でした。杏奈ちゃんはいじめられる役だから、シーンを演じる前は距離感を置くために“空き時間でもあまり話さないようにするね”って最初に言われました。私も春花をいじめたり、琉美に対してうっとうしいと思っているときは、心の距離を置いてみたりして、感情の調節を真似しました。でも、大体現場は和気あいあいとしてして、リハーサルの時もスタートがかかる直前まで、みんなで笑いあったり、ほのぼのしていましたね。ただし一回始まるとみんな変わるので、周りの空気によって自分もスイッチを入れて、妙子になることができました」
――役者さん同士の信頼関係が無いと、相手役に対して暴力的なこともできないですよね。
「琉美をいじめるシーンはすごく心が痛かったんですけど、遠慮したら逆に相手に失礼だし、シーンがぐちゃぐちゃになっちゃうので。アクション指導の方に受け身を教えてもらったり、“ここに当たったらあまり痛くないから、思いっきり蹴っていいよ”とか、そういう蹴り方を教えてもらって、やるからには遠慮せずに“バンッ!”て思いっきり蹴ったり、頭をつかんだりしました。撮影期間は本当に合宿みたいで、ほぼ生活を共にして、お芝居の練習に付き合ってもらったり、カメラが撮っていないときもみんなと一緒にいたからこそ、信頼関係が作れたと思います」
――そのロケ地はものすごい豪雪地帯で。
「すっごい雪がありました! 道路のカーブミラーが足元にあるぐらい雪が積もっているのを見た時はびっくりしました。私は宮城県の出身なんですけど、日本海側は全然雪の量が違いますね。あんなにきれいに積もっている雪を見たのは初めてでした。最初、撮影現場に着いたとき“マジか!? ココかぁ〜』って思いましたし(笑)。周りにコンビニも一軒も無かったので、たま〜に車を出してもらって、みんなで買い出しに行くのがホントに楽しみで、癒しでした。あとは現場が酷寒なので、温泉に入るのが一日の唯一の癒しというか、そのために頑張ろうって思ってました。撮影のあとのお風呂は格別(笑)。雪景色が観られるような露天風呂だったら、もっとよかったんですけどね(笑)」
――映像からも冷え冷えした空気と静けさが伝わってきましたが、そんな空間に入ることで、登場人物たちの置かれている環境も理解できたのでは?
「本当に何もないところに行きましたし、もちろん寒かったんですけど、寒さによってその時代のその子たちの表情につながったと思います。学校にしか自分の居場所が無いのに、そりゃあこうなることもあるのかなあっていうことをリアルを感じました。ロケ現場が、自分が普段生活している環境と、全く別の空間にいるような気持にさせてくれて、役に入り込めました。あの世界は本当にきれいでした。雪はキレイなんですけど、いろんなものを隠してしまうので」
――ある意味追い込まれた?
「正直、体力的にも精神的にもきつかったです。雪の上にずっと血まみれで倒れていたんですけど、雪もダミーじゃなく、本当に冷たさを感じているので、その表情がすごくよく出ているなって思いました。クライマックスの格闘シーンの撮影だけでも1日半ぐらいかかっていて、服もだんだん血で凍って来るんですよ。世界観に合わせて、ぴったりした白い衣装にこだわったので、寒かったけど頑張りました」
――野崎春花の赤い服と小黒妙子の白い服という対照も美しかったです。。
「赤と白のコントラストは、ほかのシーンでも血と雪とかいろんなものを想像させられると思うんですけど、すごく綺麗に映っているなと思いました」
――最初にもありましたが、春花と妙子の関係性が物語のなかでも重要なポイントです。演技経験の浅い大谷さんには、内藤瑛亮監督の特訓もあったと聞きました。
「二人の重要なシーンは、クランクイン前の本読みの段階から、私の時だけ時間を使っちゃって、思っていることが上手く表現できなくて苦労しました。現場に入ってからも、撮影が終わってから監督に特訓してもらいました」
――監督の言葉で覚えていることや、自分の中で変われた部分は?
「自分の中で作った気持ちがMAXにならないと“もう一回やってみようか?”って、絶対にOKが出ないんです。そこは監督に見抜かれているから、つねに毎回毎回、何テイク重ねてもMAXに持って行くのが大変でした。監督には“一回映画を観終わって、もう一度見直したときに、『だからここで妙子はこういう顔をしていたんだね」っていうの理解してもらえるような、別の見方も出来る顔をしてね”って言われていました。妙子はセリフが少ないからこそ、顔や立ち方でその心の奥まで表現しないといけない。この経験は、次の機会にも活かせるので、大切にしていこうと思いました」
――映画の後半、春花と妙子がバス停で語る場面は、難しいシーンですが真に迫るものを感じました。ネタバレで詳細は書けませんが、本当にすごい顔になってますよね!
「本当にブスですよね(笑)。想像以上にぐちゃぐちゃだったんですけど、自分の写り方なんて気にしてたら、いいことないので。監督に何回も練習してもらったのはあのシーンで、殺伐とした場面が多い映画の中での、唯一の救いになるシーンなので。監督も大事にされていたんです。撮影にもすごく時間がかかりました」
◆春花と妙子の関係性、複雑な感情を感じてもらいたい。
――妙子を演じたいと思ったそうなんですが、どこに惹かれたんですか? この作品の中で、一番正常な心を保っていたのは実は妙子なのかなとも思うんです。
「一見強い女の子で、周りに対しても自分に対しても、感情をあまり表に出さない。でも考えていることは山のようにあるし、いろんな気持ちを抱えてぐちゃぐちゃになっているのが妙子。その気持ちを全部汲み取れたかは分からないんですけど、なるべく分かってあげたいと思ったんです。シーンによっては、琉美とか、取り巻きの橘とか三島とか加藤とか周りの子に対して、すごく壁があって自分の本音を出さない。私も人と打ち解けるまで自分の思っていること出せないんですけど、そういう部分が似ていると思って、演じてみたいと思いました」
――彼女のなかで大事な部分として、あの町を出て東京に行きたいという憧れを持ち続けているところがある。そういう意味では芸能の世界に憧れていた凜香さんと重なるところがあるのでは?
「美容師になりたいなら東京で働くのって憧れじゃないですか。芸能の仕事をするなら東京に憧れるのは当たり前だし、そういう部分ではわかってあげられるところがあったなと思います。でも地方から東京に出るって、家族の協力も必要で。妙子の場合は家族に否定されて、いい反応をもらえなくて、だけど行きたいという気持ちが強くて。きっとお父さんに東京に行きたいって打ち明けた時も、心の中に大切に想う人がいたり、感情が一つじゃないので難しかったです」
――普段、学校のなかでの自分のポジションはどんな感じですか?
「私は割と“仲介人”になることが多いです。女の子って、特定の子と一緒に固まっているじゃないですか? 私はいろんなグループの間に入って仲介することが多かった気がしますし、いろんな相談を受けるタイプだったと思います。あと私は学校がすごく好きで、友達が大好きなので、友達に会うために学校に行くぐらいなんです。『ミスミソウ』は、自分の置かれている環境とは違い過ぎたからこそ、もう頭で理解しようと頑張るんじゃなくて、やってみるしかないという気持ちになって、演じ切れたのかもしれないです」
――映画『ミスミソウ』は、実はどんな学校にもありそうな関係性を、極端にサスペンスやホラーのような手法で描いたものなのかなと。
「本当に無くはないと思います。一線を越えるか越えないかだけで、きっとあると思うんです。どんな女の子にも友達はずっと一緒にいてほしいという気持ちはあるので、それがいろんなきっかけでエスカレートしてしまったんだと。だからこそ、この作品に触れる人は、複雑な気持ちになっちゃいますよね。切なさだけでもないし、ただの恋愛モノや学園モノではないし。単純には割り切れない作品だと思いました」
――『ミスミソウ』のどういうところを観て感じてほしいと思いますか?
「妙子が本当に、いじめっ子のボスみたいな、強いだけの女の子なのか?っていうのをみんなに観てもらいたいし、春花との関係性、複雑な感情を感じてもらえたら、上手く演じられたなあって思います。初めての演技、初めての映画、最初で最後の初めてなので、ぜひ観ていただきたいと思います!」
映画『ミスミソウ』は4月7日、新宿バルト9ほかにて全国順次公開。
■大谷凜香(おおたに・りんか)
1999年12月24日生まれ、宮城県出身。趣味:料理、お菓子作り、野球観戦。特技:空手初段(黒帯)
第16回新潮社『nicola』モデルオーディションでグランプリを受賞したことをきっかけに、『nicola』専属モデルとしてデビュー(2012年10月号〜2016年6月号で卒業)。『ポケモンの家あつまる?』(テレビ東京)レギュラー出演中。
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会